2013謙也誕生日 | ナノ
無事に高校進学が決まり特にやることもない夜中、と遊んだりゲームをしたりしながら時計とにらめっこをする。
そして時計の針がてっぺんを指すと同時に鳴り響く着信音。

「もしもし!」
「お誕生日おめでとさん」
笑い声まじりに告げられるお祝いの言葉に内心はしゃぎながらも15になった記念に少しばかり 強がってみせる。
「なんで笑うてんねん!」
「じゃって謙也電話出るん早すぎ…ずっとスマホ握りしめてたん?」
「当たり前やろ!それどころか時計睨み付けてたっちゅー話や。…仁王もやろ?日付変わった瞬間かかってきたで?」
「…プリッ」
わざと意地悪げに聞くと図星の時に使う(と最近気付いた)擬音語が返ってきたことに走り出したい衝動にかられる。
そう、なんなら神奈川まで…

「俺今猛烈に神奈川までダッシュしたいんやけど!」
「何言っとんの。いくらスピードスターでもそれは無理じゃ。」
「ただのスピードスターじゃないで!愛のパワーみなぎるスピードスターや!」
「お前さんそんなキャラじゃったっけ?」
ふふっという笑い声で照れくさそうに頬を緩ませている仁王の顔が浮かんで、こちらも笑顔になる。

「プレゼントは仁王がえぇなぁ。」
「うっわぁ、謙也が変態じゃー」
「ちゃ、ちゃうって!変な意味やないで!!」
必死に否定する俺にますます笑う仁王、15になったからといってすぐにへたれが直る訳ではないらしい。

ひとしきり話し終え電話をきりそのまま通話終了画面を見つめる。
まだ高校生にもなっていない自分たちにとって大阪と神奈川はそう頻繁に行き来出来る距離じゃない。
春休み中に侑士の家に行ってその時神奈川にも行こう。
会いたいけれどあと少し我慢。
付き合い始めて最初の誕生日を一番に祝ってもらえただけで十分や、と言い聞かせて眠りについた。


朝になりいつものように後輩たちのために部活に行くとみんなでお祝いをしてくれた。
プレゼントやおめでとうという言葉をたくさん貰って、恋人に会えなくてもこんなに多くの友人に祝って貰えて俺は幸せモンや。と思っているとポケットの中のスマホが震えだす。

メールの送信元の名前に顔をほころばせ本文を見て目を見開く。
「急に百面相せんでください。きもいっすわ。」
「俺帰るわ!白石に適当に言うといてくれや!」
毒づく財前をものともせずカバンをひっつかみジャージのまま全速力で走り出す。
遠くで白石が何か言っているのが聞こえるがそれを気にかける余裕はない。

「謙也あんな慌ててどないしたん?」
「仁王さんに何か言われたんやないっすか。」
「仁王くんやて?!謙也待ちぃや!俺も連れてってくれや!」
「蔵りんラブラブな2人の誕生日を邪魔したら駄目やないの〜」
「…謙也、今日だけや。特別やで…」
「部長うるさいっすわ。」

そんな会話をするテニス部の仲間たちをよそに大阪駅にたどり着いた謙也の目に飛び込んできたのは人ごみの中でも目立つ銀色の髪。
昨夜あれほど欲したその姿に手を振ると向こうも派手な金髪に気がつき手をふりかえす。

「こんにちは。早かったのぅ。」
「こんにちは。スピードスターをなめてもらっちゃ困るで!」
「そんな走ってこんでも良かったんに」
息を切らし汗だくになっている謙也の額を「まだ使っとらんから」といって仁王はタオルで拭う。
「おおきに。遠くから恋人が来てくれとるんに急がへん彼氏はおらんやろ!でもどないしたん、急に」
タオルを受け取った謙也がそう聞くと
「今日の部活が朝だけじゃったんよ。…それにやっぱり直接祝いたかったけぇ。改めて、誕生日おめでとさん。」
謙也はそう言ってニッと笑う仁王を抱きしめたくなるが、必死にこらえ代わりに手をり満面の笑みを向ける。

「よっしゃ!今日は思いっきり楽しむで!覚悟しとき!」
「おん!」

「腹減ったなー。仁王食いたいもんないん?」
「んーそうじゃのぅ…本場のたこ焼き食べてみたいなり!」
「了解!」
そうして謙也が仁王を連れてやってきたのは小さな地元密着型のお店。

「おっちゃんたこ焼き2つ!1つはいつも通りな!」
「あっ俺が払うぜよ。」
「いや、ええって」
「でも謙也の誕生日なんに!」
「ええから!カッコつけさせてくれや。」
「えぇー…」
俺が払う、いや俺がとお互い譲らない2人に店主は笑いながらたこ焼きを差し出す。
「謙也くん今日はまたえらい綺麗な顔した兄ちゃん連れとんなー。」
「せやろ!なんてたって俺の自慢のこ…」
突然頭にばしんと衝撃が走り何かと思えば、顔を赤くした仁王がしかめっ面で
「そういうこと言うんじゃなか」
とプリプリ怒っている。
珍しく照れている仁王に謙也も同じく頬を染め、そんな2人に店主はハハハと豪快に笑った。

結局、仁王が奢られてくれるんが誕生日プレゼントや!と言う謙也に仁王が渋々従い謙也の買ったたこ焼きを小さなテーブルに並べる。
「片方やたらたこ焼き多くなか?」
「特注やで!普通じゃ足りひんからなー」
「店主さんとも仲ええし、ここにはよく来るん?」
「おん、穴場の店や!四天の奴らも連れてきたことないんやで?仁王が初めてや!」
という謙也の言葉に仁王がふわりと笑って「スッゴい嬉しいぜよ」と言うのを聞いて、謙也もまた「俺も嬉しいで!」とニッカリ笑った。

「これ何もかかっとらんよ?」
「塩かかっとるんや、食べてみ?」
「塩…?ではいただきます」
手を合わせてからたこ焼きを丸ごと口に含んだ仁王をニヤニヤ見つめる謙也に仁王は気付いていない。
「あっふい!」
手で口を覆い顔を歪ませる仁王に
「そら丸ごとなんて食うたらあかんに決まっとるやろ!」
と腹を抱えて笑う。
ようやくたこ焼きを飲み込んだ仁王は涙目で「言うてくれたら良かったんに」と訴えるが、謙也は腹を抱えたまま「熱がる仁王を見てみたいって思ってなー」と返す。

「むっかつく…けど美味しい」
謙也を睨み付けたかと思うとすぐに顔をほころばせた仁王に謙也は
「せやろ?美味いたこ焼きは塩でも美味いんやで!仁王にそう言ってもらえて俺もたこ焼きも幸せモンや!」
と満足そうに頷いた。

その後もゲームセンターに行ったり買い物をしたりしていつの間にかすっかり日が落ちていた。

「新幹線8時やったっけ?あっという間やなぁ。」
「おん。明日は朝から試合なんじゃて。応援行かんと真田だけじゃなくて赤也もうるさいからのぅ。」
心なしか寂しそうな顔をする仁王の頭を軽く小突き謙也は言う。
「そんな顔せんでもすぐに今度は俺が会いにいくで。なっ!」
「待っとる。…でもなんか謙也の誕生日なんに俺の方が色々してもらっちゃったのう。」
「せやから、俺にとっては仁王が喜んでくれるんが最高のプレゼントやって言うてるやろ?」
落胆する仁王の顔を覗き込んだ謙也がそう言うと
「…謙也のそういうところ、大好きじゃ」
としっかり目をみて告白する仁王を謙也は思わず抱きしめた。

「ちょ、謙也人が見とる!」
「ええやん、15歳の俺はへたれやなくて積極的にいくで!」
「なんじゃそれ…」
ため息をつきながらも嬉しそうな声を返され、その耳元にキスを1つ落とした。

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