何度でも1 | ナノ
暖かな春の日差しと心地よい風を肌で感じながらぐぅっと伸びをする。
最終学年を迎えての目標はただ1つ、全国三連覇。気持ちを引き締めてお気に入りの場所へと足をのばせば華やかな景色の中に浮いている銀色が1つ。
「やぁ、イリュージョンの研究かい?」
ピクッと肩を震わせこちらを振り向いた恋人の頭をなでて横に腰を下ろす。
「なんだい、そんなに驚いちゃって。あ、また水をあげすぎたんだろう?研究熱心なのはいいけど水のあげすぎは厳禁だって言ったろう?」
「やっぱりガーデニングは趣味じゃなか…」
「ガーデニングをしなくたって俺の日常が知りたいなら喜んで1から10まで手取り足取り教えてあげるよ。…まあ、仁王のことも教えてもらうけどね」
耳元でそう囁くと頬を赤らめてそっぽを向く恋人は、チャラチャラした見た目と軽率な言動に反して意外とシャイなところがあって、かわいいな。と自分の口が緩むのを感じる。
「桜、結構散ってしまったのぅ」
そらした顔の先のひらひらと花びらを舞い散らせる桜の木を見つめて仁王が呟く。
「そうだね。桜の花の命は短いからね。」
「短いけど…その間人の心を惹きつけて、色々な思い出や感情を与えてくれるじゃろ?それに…こうして大切に思われて桜の花も例え短い命でも幸せやと思う。」
「ふふっ、そうだねぇ。なんだか珍しくロマンチックなことを言うね?柳生の影響かい?」
銀色の髪にだらしなく着くずした制服に似つかわしくない台詞を口にした仁王がなんだか切なげで泣きそうな顔をしていたことを、深く考えようとはしなかった。
だって、俺の言葉を聞いた仁王は、ポエマーと一緒にせんでくんしゃい。とすぐにいつものように余裕な笑みを浮かべたから。
「こうしてるとあの日のようだね。」
「ちょうど2年前くらいじゃの。」
2年前、俺と仁王が初めて出会った日もこんなふうに日差しが暖かくて心地よい風に桜が舞っていて、2人でここに座っていた。
「君も花が好きなのかい?」
返答もなければ振り向きもしない中学1年生とは思えない彼の横に腰を下ろす。
「無視なんてひどいなぁ」
「…」
「ねぇ、この花の名前知ってるかい?」
「…」
「この花の名前はサクラソウ、花言葉は…」
「初恋、長続きする愛情」
「あれ?知ってたんだ?」
初めて聞こえたその声がなんだかとても嬉しくて顔を覗き込む。
色白な肌に浮かぶ口元のほくろと少し目付きは悪いけど整っている顔に金色の瞳が印象的だった
「いい眼をしてるね」
「…」
「テニス部に入らないかい?一緒に全国三連覇しよう。」
気持ちを抑え切れずに断られるのを覚悟で誘ってみたら
ええよ、と素っ気ないけれど思いがけない言葉が返ってきて生まれて初めてなんじゃないかと思われるガッツポーズをしてしまった。
「やった…!僕…俺の名前は幸村精一。よろしくね。」
差し出した手を見てふぅっと息を吐いた彼はぎこちなく握手を返し「仁王雅治、よろしく」と言って口角を持ち上げて笑った。
「まさかOKしてもらえるとは思わなかったよ。」
「まるで新手のナンパじゃったのぅ」
「あれ、仁王はナンパにホイホイついていくの?」
「お前さんは普通のナンパ男と違って恐ろしいけぇ」
「ひどいなぁ。まあ仁王をナンパする男がいたら全員滅多打ちにしてやるけどね」
イップスじゃー、とわざとらしく体を震わせる仁王の手をとり「さぁ、部活の時間だよ。サボりは許さないからね。」とわざとらしい優しい笑顔を作って立たせると「はぁーい」と返ってくる間延びした声。
握り返されたその手はとても温かかった。