雪をも溶かすほど跡仁 | ナノ
昨夜から降り続いていた雪はようやくやんだが
関東にしては珍しくかなり積雪している。
そういえばニュースキャスターがこんなに雪が降ったのは20年振りと言っていたな、つまり自分たちが生まれてから一番ということか。なんてことを考えながら専用の携帯を操作する。

ほどなくして返ってきた返信を見て跡部はつい顔をほころばせる。

どこを走っていても目立つ黒いリムジンが東京から神奈川へとはいるのを確認し、はやる気持ちが抑えられなくなってくる。

はやく、はやく。なんていくら念じようと速度を上げることは出来ないのがもどかしい。
会うのが久々と言うわけではない。つい3日前に家に泊めたくらいだが、例え毎日会おうとも離れた途端に顔が見たくてその体に触れたくて仕方ないくらいに跡部は夢中なのである。

ようやく目的地につき車から降りようとすると運転手に
「景吾様、車内でお待ちになっていたらよろしいのでは?」
と止められるが「こんな所でじっと待っていられねぇよ」と返し歩みを進める。
一面真っ白に染まった校庭に恋人の姿を見つけ、跡部は呼ぼうとした愛しい名前を飲み込んだ。

「妙技、石入り雪玉!!」
「いってぇぇ!石入りは無しっすよ!」
「どう?天才的?」
「天才的というよりは暴力的じゃのぅ。赤也、大丈夫か?」
「あー仁王先輩は優し…って冷たっ!…服の中入れないでくださいよ!」
「プリッ」

ギャーギャーとまるで小学生のように同級生と後輩とじゃれあう恋人の姿に跡部は呆れたような、それでいていとおしそうな笑みをこぼす。

それまでの跡部だったら、恋人に対して常に上からであったし
「俺様を待たせるんじゃねぇ」
と一喝しているか、そもそも迎えになんてこなかっただろう。


ただ、今の恋人ーー仁王雅治はそれまでとは比べては残酷だといえるくらい跡部にとって特別であり、普段見ることの出来ない友人といるときの笑顔を見ていたいと思ってしまったのだ。

無邪気な笑顔に惹かれ、かなり冷え込んでいる空気に身体は震えているが、せっかくあれだけ楽しそうだからもう少し楽しませてやりたいとも思うくらいだ。

その一方で自分以外の男と戯れているのは気持ちがよくない。
嫉妬なんて感情を覚えたのも仁王に対してが初めてだ。


10分以上そうしていただろうか、仁王とパチりと目が合いようやく跡部に気付いた仁王が笑顔で手をふり最後の一撃というべきか雪玉を2人にぶつけてから雪の上に直に置いていたラケットバックをつかんで走りだす。

「おい、走ると転ぶぞ!」
という跡部の忠告もむなしく仁王はつるりと滑って豪快に尻餅をついた。

「言わんこっちゃねぇ」
転ばないように気を付けながら仁王の元へ駆け寄り手を差し伸べた瞬間跡部の視界が揺らぐ。

ばふんっという音と真っ白な視界
「仁王、てめぇ…」
何が起こったのかを理解し顔をあげ仁王を見れば
「跡部も真っ白ぜよ。これでお揃いじゃの?」
なんてへへっと笑っているもんだから、その可愛さに怒る気も失せてしまう。

「…ったく、お揃いじゃの?じゃねーぞ」
と悪態ついてポケットから取り出したものを仁王の頬に当てる。

「ピヨッ!…なんや、あったかいのぅ」
「お前がいつまでも遊びほうけてるから随分ぬるくなっちまったけどな」
跡部がコーンポタージュの缶を見せれば仁王は目を丸くしてケラケラと笑いだす。
「跡部、お前さん自動販売機使えたんか。」
「あーん?俺様をなんだと思ってやがる。」
せっかくの好意を、と跡部が顔をしかめると仁王はニィと口角をあげて
「んー、俺の大事な彼氏さん、かのぅ?」
と答えるのだ。

寒さで鼻の頭を赤くしてそんなことを不意討ちで言うなんて反則だ。と跡部は頭を抱える。
「お、王様が照れとるー」
クックッと笑う仁王の腕を引き寄せその唇をふさぐ。
「そういうお前こそ顔が真っ赤じゃねーの、あーん?」
「…こ、これは寒いから赤くなってるだけじゃ」
「へぇ…?寒いと言うわりに体が火照ってきてるぜ?」
「うっさい!!」
口では悪態をつきながらも一瞬のキスであー。だのうー。だの唸りながら照れてしまう恋人を見ているとどうにも理性が抑えられなくなってしまう。

「続きは帰ってからだな」
と仁王を抱き上げお姫様抱っこをすると
「ちょ!赤也とブン太がまだおるから!見とるから!降ろしんしゃい!」
プリプリ怒りだす仁王の口から出る男の、それも下の名前にいちいち反応してしまうなんて大人気なくなってしまったな。
と苦笑しながら跡部は名前のあがった2人のほうを振り向く。

付き合っているのは知っているはずだがまさか仁王がこんな風にキスをされ抱きあげられているなんて想像はしていなかったのだろう。
跡部は呆然と立ち尽くす丸井と切原に挑戦的な笑みをくれてやり
「上等だ。見せつけてやろうじゃねーの」
と腕の中の仁王に笑いかけ口付ける。

途端に大人しくなり目を反らし再び顔を赤く染める仁王を早く連れて帰りたい。
この積雪じゃ恐らく明日の朝も交通網はマヒしてるだろう。…それならば明日の朝まで家に泊めて朝学校まで送ってやるか。
幸い移動手段ならなんだって持っている。
だから今夜はずっと一緒だぜ、とは口には出さないでおいた。


「なんなんだよぃ、あの2人…」
「見てるこっちが恥ずかしいっす…」
「雪をも溶かす愛とはこのことでしょうか?」
「「なるほど…柳生(先輩)いつの間に?!」」

跡部の腕の中で顔を赤くしている仁王だけでなく、その原因である跡部の顔も赤く染まっていることには誰も気付いていなかった。


関東で記録的豪雪の降った次の日、私は1人で派手に転倒し、何事もなかったかのように歩き出しました。
あまりにも虚しいので跡部と仁王は仲良く転んでしまえ!と、お尻の痛みがひいたので書いてみました。

シリアス跡仁も大好きですがバカップル跡仁もいいなぁ。

立海みんなに雪合戦させたかったけど断念。
ポエマー現る。
季節はずれでごめんなさい!
以上!

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