love graduation | ナノ

学校に行くのも、苦手な早起きをして部活に行くのも、いつしか全てあの人のためになっていた。
通学路に目立つ銀色の柔らかそうな髪見つけると嬉しくて、勢いよく走り出してはそのまま丸まった背中に抱きついた。
呆れたように笑って、おはようさん。と髪の毛をグシャグシャにしてくるから、怒ってみせたりして…そんな毎日が大好きだった。


先輩たちが部活を引退して、それまでのように毎日当たり前のように顔を合わせることが出来なくなってから
廊下や階段で必死に先輩のことを探すようになって、全然会えないな、と落ち込んでるとまるでお得意のイリュージョンのように「相変わらずワカメじゃのう」ってクックッと笑って俺の前に現われてくれた。

いつもいつもからかってきてばかりだけど、俺が落ち込んでることに誰より早く気付いてさりげなく元気づけてくれた。
怒られるのが嫌いなくせに俺が副部長に怒られてるときは決まってわざと何かしでかして怒りの矛先を変えてくれていたのも分かってた。
いたずら好きで飄々としていて掴み所がないけれど、本当は誰より繊細で優しい先輩が大好きで…。

先輩は俺の原動力だった。あと1年ちょっとしたら、また先輩との日々が送れると信じてた。


いつものように終業のチャイムが鳴ると同時に教室を飛び出して3年B組へと走って向かう、赤髪が見当たらなくて今日はラッキーだ!とどっかのオレンジ頭のようなことを考えながら、壁に寄りかかって他愛ない話をしていた。いつもと同じだった。

「…えっ?先輩、外部に行くんッスか…?」
「おん。あれ?赤也に言うとらんかったっけ?」
「き、聞いてないっスよ!!なんでですか?!立海でまた俺と…俺たちと…俺、高校でも先輩と…信じてたんっスよ?!」
だから、ふと先輩の口から零れ出た言葉を信じたくなくて、いつものように嘘じゃよって、赤也は騙しやすいのうって言ってほしくて…それでも先輩は制服を掴む俺の手を払いもせずに、「…すまんのぅ」と一言だけ呟いた。

行かないでくれ!なんて駄々をこねてもどうしようもなくて、大袈裟と言われるかもしれないけれど本当に世界が終わったように感じた。
高校に行ってまたみんなでテニスをして、先輩のために毎朝早起きして学校に行って、俺と同じく朝の弱い先輩が来ていない日にはひどく落ち込んだりして…そしていつかこの恋を叶えてみせるんだと、まだ今は早いけれどもっと大人になったら先輩と恋人になれるんじゃないかって、それだけが俺を動かしてきたのに…この先の学校生活に意味なんてみいみだせない

ドンっと先輩を突き飛ばし、廊下を走り去る。それまではずっと先輩に会うために、先輩を探すためにあったそこを。一角に置いてあるゴミ箱を力一杯蹴飛ばせばガンッという音と共に勢い良く倒れくしゃくしゃのプリントや購買のパンの袋があたりに散らばった。
「切原!何してるんだ!」なんて叫ぶ教師の言葉も雑音でしかない。意味がないんだ。先輩がいなくちゃ駄目なのに。卒業式まで2週間をきった肌寒い日のことだった。


例年よりも暖かく日差しが穏やかな今日、体育館の舞台前に並ぶたくさんの背中の中にその姿をすぐに見つける。
副部長か柳生先輩に言われたのだろうか、切ったのか変装道具なのか見分けはつかないけれどいつも結ってあった先輩の長い髪が少し短くなっていた。
まるで出会ったあの頃のようだ。思い返せばテニス部で初めて言葉を交わしたのは仁王先輩だった。
初対面で騙されて、なんなんだあの人はって凄い腹をたててたなぁ。先輩と過ごした毎日の1つ1つが鮮明に浮かんできて苦しくなる。
春の匂いが鼻先をかすめた。

淡々と読み上げられていく名前、先輩の名前を耳にして、行かないで。なんて叫ぶことも出来なくて。
最後になってしまうなら何か先輩の欠片がほしい。
好きで、好きで、好きで、大好きなんだ。

あの日以降先輩と言葉を交わしていなかった。
避けていたのは俺だった。
先輩は何も変わらなくて、それが余計に悔しかった

ゴミ箱を蹴飛ばしたことが副部長の耳に入って怒られていたとき、
「俺が赤也に変装してやったんじゃよ、赤也を叱りなさんな。」
って、いつものように与えてくれたそのさりげない優しさが辛かった。
お礼も言えずにいたずらに時は流れて今日が来た。
あと1時間もしないうちに、別れのときがくる


式が終わりわらわらと集って写真を撮ったり涙を流しながら抱き合う卒業生の中に、丸まった背中が見当たらない。
ふと上を見上げると目に飛び込んできたプカプカと浮かぶ先輩との思い出。ごちゃごちゃした人ごみをかきわけて駆け抜ける。
きっと、きっといるはずだ。もしもあそこにその姿を見つけることが出来たら俺はーー


錆びたドアの鍵は…開いている。ゆっくりと戸を押すとギィと軋む音がする。

「やーっぱりここにいたんッスね。」

青く澄んだ空、柔らかな日差しの下で先輩はあの日と同じように、バレたかと言ってにやりと笑った。

「先輩いつもこんなところでサボってるんですか?」
「サボってるんじゃなか、黄昏とるんよ。」
「授業中に屋上で黄昏てるのがサボりって言うんっスよ!」
「赤也が怖いぜよーで、どうしてここが分かったん?」
「窓の外見てたら上からシャボン玉が飛んでくるの見えたんッスよ!シャボン玉なんか吹いてるの仁王先輩くらいだろうなって思ったらビンゴでしたね!鍵どうやって開けたんっスか?」
「シャボン玉なんかってひどいのぅ。じゃ赤也、ここは俺とお前さんだけの秘密の場所じゃ。」
手渡された小さな鍵、先輩のいたずらな笑顔、緑の生い茂る少し暑くなってきたあの日のこと全部覚えてるんだ。

「こんな日までここでシャボン玉吹いてるなんて、相変わらず変な人っスね!」
「こんな日じゃからこそ、ぜよ?」
「…その考え方も相変わらず変わってますよ」
ぷぅと膨らみ光を反射し美しい彩りをもったシャボン玉がふわり、ふわりと揺れてはパチンと消える。

なんとも思っていなかったシャボン玉の儚さが今はなんだか切ない。

ボタンも校章も全てなくなった制服をだらしなく着ている先輩との時間ももう消えてしまうのだろうか

せめて、ボタンを貰ったであろう女子たちのように思いを伝えることが出来たなら…

「女子たちから逃げてきたんすか?」
「正解。赤也も賢くなったのぅ?」
「馬鹿にしないでくださいよ」
「プリッ」

沈黙が続く。プカプカとシャボン玉を吹き続けている姿が、先輩の全部が大好きだと、言い掛けた言葉が喉につまる。

「またその内会えるぜよ」
こんなにそばにいるのにその言葉が笑顔が遠い。
果てしなく続く思いがあふれ出て止まらない。

「…仁王先輩、抱きしめてもいいすか?お別れの挨拶ってやつッス。」
先輩は一瞬キョトンと目を見開いたあと、コクリと頷いて微笑んだ

自分よりも背が高くて自分よりも細いその体を、柔らかさも温かさもない男の体を、強く強く抱きしめる
この腕を離したら、いよいよ最期だと考えるとこみあげる思いを止めることが出来なかった。

スッと身体を離し目の前の大好きな人の額に唇を落とす
「額へのキスは祝福・友情の証、らしいっスよ!」
ポカンと静止している先輩にへへんっと笑ってみせるのが俺の最大で最後の強がり

ねぇ先輩、大好きです。
「そんじゃ、さよなら!」と立ち去る俺の背中に投げ掛けられた「頑張りんしゃい!」なんてぶっきらぼうな声援
わずかに振り向いて、ぼやける先輩の姿を一生分焼き付ける

「うぃっす」
小さく返事をして錆びたドアを開け暗い階段を掛け降りる

桜舞い散る校舎に春の温かな風が吹く
本当に大好き、でした。
大好きな先輩に、夢中で恋したこの青春に、この思いにさよならを。




赤仁で卒業ネタでした!
赤也の門出の言葉みたいになってしまい申し訳ないです…
中学の卒業式って確か18日〜20日辺りだった記憶があるのですが、よく分からないので3月ならいいか!と。
立海は附属校だし仁王は受験とかわざわざしなさそうだと思ってます。
一番危ないのは柳生かなーなんて
今回は片思い赤也がかきたかったので仁王に外部行ってもらいました悲しい…
赤也は仁王のことを恋愛の意味で大好きですが仁王にとって赤也はあくまでもかわいい大切な後輩
お互いの気持ちは分かってるんです。だから辛い。

この春卒業された方、または周りにいる方おめでとうございます。
以上!
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