私の彼氏である不知火一樹はこの学園の生徒会長で生徒みんなのお父さんのような存在である。色んなところに引っ張り凧、とにもかくにも彼はとても忙しいがため学科も違えば同じ学年であること以外に共通点のない私は、彼とはなかなか2人きりになれず時には全く会えずメールや電話も一切しない日がある。ぶっちゃけた話、寂しかったりもするのだがそうも言ってられない。本来私が恋人として彼の隣に居ることは、ほかの生徒からしたら良い気はしないと思う。だから寂しさは歯を食いしばって我慢していた。そんな私だけれど、今は生徒会室で彼と2人きり。月に3度あるかないかのこの状況、休日書類整理に生徒会室へと来る一樹が、お前も来い、と私を呼んでくれるのだ。寂しくて涙した後もこの電話が来た瞬間満たされた気分になって、笑顔で生徒会室の扉をあける。だから普段は我慢をしてる、でも、これは違う、と私は思う。

「な、つ、月子が熱を出した…!?それは本当なのか颯斗!…東月が言ってたの、か、なら確かだな…」
「一樹、」
「ああ、分かった、分かった!連絡ありがとな、颯斗…じゃあ」
「一樹ったら、」
「クソッあいつが熱…大丈夫なんだろうな…」
「…」
「…はあ、」
「…」

どうやら学園のマドンナの夜久さんが熱を出して寝込んでいるらしい。東月くんにばったり遭遇した青空くんが一樹に報告電話をしてきた、らしい、何故一樹に。当の一樹は、37.5℃か、と心配からかそわそわとしていて落ち着きがない。彼女の私が話し掛けてもまったく聞こえず、お見舞いに行くべきか、なんて自分の世界に浸っていて、というか、37.5℃?大したことないでしょ?、言ってしまった。

「大したことないだと?…お前、少し薄情じゃないか」
「…は、」

薄情はどっちだこの野郎。一樹がみんなのお父さん的存在、というのは分かっている。生徒のことが心配で心配で仕方がないのも分かってる、時偶自分を犠牲にしては私が説教をしている。でも一樹の心配は夜久さん宛てで、一樹は生徒会長である前に男、夜久さんも生徒である前に女、一樹は私の心配なんてしないのに夜久さんの心配をしていて、3週間ぶりの2人きりなのに、なんて考えてたら、

「お、おい、泣くな!な、なんで」
「薄情ですみませんでした今までありがとうございました楽しかったですそれでは」
「何言って」
「実家に帰らせていただきます!」
「な、おい!」

何が何だか分かってないような一樹と、涙が視界をいっぱいにする。泣きながら去ろうとする私の腕を半ば反射的に掴んでいる一樹の手には力が篭っていて振り払えない。キッと睨めばびくつく彼を見てとても情けなくなった。こんな馬鹿男のせいで、嫉妬という感情を覚えてしまっているのか、なんだか腹立たしい。

「何が何でそうなった!確かに、薄情、は言い過ぎたが、お前はいつもそういうのも笑ってくれてて、!」
「我慢」
「…我慢?」
「私だって、我慢してるんだよ!毎日会えないのだって、毎日メールや電話ができないのだって、みんな我慢してるんだよ!」
「お前、」
「一樹は皆の人気者だから、我慢してるけど、今日は久しぶりに2人きりなのに夜久さん夜久さんって煩い!それに微熱でわざわざ押しかけたら逆に迷惑!つーかむかつくアンタむかつく!」
「…俺はてっきり、名前は、毎日会ったりとかメールや電話とか所謂恋人らしいことは苦手だと思ってた」
「は!?ざけんなよ!そんなん嫌なら一樹と付き合ってなんかない!私だって、あわよくば、デデデートとか、したいし!?」
「…」

そうか、と言って、一樹は笑った。

「俺だけが我慢してたつもりになってた。お前は学園唯二の女子だしいつも皆の注目の的で、本当は俺の彼女だ!って堂々と宣言したかったんだが、そうか…俺の勘違いだったのか、狭い思いさせて悪かった」
「…一樹、」
「俺やっぱりあいつのお見舞い行くわ」
「!?この期に及んでまじでふざけんなよお前!!」
「はは、お前も一緒に行くんだよ、」

手でも繋いでな。照れ隠し、夜久さんに惚れて一樹のこと放ったらかしにしても知らないから、と。
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -