錫也誕 | ナノ

昨日は結局琥太郎先生の監視のもと栄養の偏らないメニューを食堂で頼んでもりもり食べた、昼と夜。更に先生の奢りで申し訳なくなった。琥太郎先生は食事をとっている姿までもが美しくてつい見惚れていたら、ちゃんと食べなさい、そうやんわりと怒られてしまったのだった。相変わらず大人の魅力がむんむんで教師と生徒という肩書きがなかったら案外惚れていたかもしれない。もしそこでそういっていたらまた、大人をからかうんじゃない、とか怒られてしまうのかな。想像をしてにたにたと笑ってしまう。蟹座定食、ゴチになりました。

「名前…!!」

そんなことを考えていたら後ろから切羽詰まったような声、振り向くと同時に正面から思い切り抱きしめられてしまった。どうやら不知火さんのようで、状況を把握した瞬間の恥ずかしさで顔面の熱が尋常じゃない。

「不知火さん、は、離してくださ…」
「あんまり、心配させるな…!」

こんな男だらけのまるでゲームみたいな学園にお前を置いとくだけでも心配なのに、倒れられるなんざたまったもんじゃない!いつもいつもお前が奴らに何かされたらって気が気じゃないんだ、いつお前が男を隣に連れて俺にこの人と一緒になりますって言ってくるのかとか、ああそいつはもうじきなりそうだが…とにかく!俺はお前が心配なんだ!

「…体調、気付けなくて悪かった」
「不知火さん…」

途中変な台詞が入っていた気がしたのだけれど、なんだか切羽詰まったような不知火さんを見ていたら余計なことは言わない方がいい気もした。特に、恋煩いからの栄養失調が原因だなんて言えない。でも人に心配されることがこんなに嬉しいとは思わず、不知火さんにしろ琥太郎先生にしろ、いや関わってくれている人全ての有り難みに気づいた、なんて壮大な火曜の放課後。

「そこまで、です」
「…東月、」
「え、と、東月、くん?」

不知火さんに正面から抱きしめられていた私は、気付いたら後ろから東月くんに抱きしめられていた。え、えっと、これはどういう状況…、なのかな。東月くんに抱きしめられているという事実、頭に浮かべれば浮かべる程くすぐったくて、ドキドキして心臓の音が聞こえそうで、怖かった。あ、また意識とびそう。

「すすす錫也お前!何やってんだ!」
「錫也こそそこまで、これ以上は名前が死ぬ」
「え…あ!名字さんごめん…!」
「…、いや、こちらこそ…!」

しししししぬかと思った。土萌くんに言われて東月くんは離してくれたんだけど、少し名残惜しいと思ってしまう贅沢な自分も居る。いきなりごめんな、とバツの悪そうな顔をして謝る東月くんがとてもかっこよくてつい顔面に熱が集中してしまう。

「そ、そういえば、名字さん昨日大丈夫だった?」
「あ、えっと、昨日は東月くんが運んでくれたんだよね!ありがとうございます、大丈夫」
「そっか、大丈夫ならいいんだ。なんで倒れたんだ?」
「あの…ちょっとご飯ぬかしちゃって、それでふらふらして」
「…何食、ぬかしたんだ」
「…」

言わないとダメかな、という顔で見れば言えとでもいうかのような無言笑顔の圧力。2食です、と消え入りそうな声で言えば、ふっと東月くんの顔から笑顔が消えた。あっ無表情はじめてみた、かっこいい。

「名字さん、明日から昼休み、俺とご飯食べような」
「え…!?いや、それは…!」
「栄養失調おこしたやつに拒否権はないよな?な、羊、哉太」
「まあ、そうだよね」
「また倒れられたら困るしな」
「いや、あの、」
「おいお前ら特に東月ちょっと待て!コイツは俺と食べるから問題ない、勝手に決めるな」
「それじゃあ、明日昼休み迎えに行くから」

そういって東月くんは、不知火さんを見事に無視して、帰っていった。
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