錫也誕 | ナノ

哉太くんは、名前でいいと言われたのでそう呼ぶことにしたのだ、私が東月くんのお誕生日をお祝いしても気持ち悪いとは思わないと言った。ついでに私が受験票を拾ってもらったことも知っていて、ああそういえばあの時東月くんの後ろに居たかもしれない。哉太くんが覚えているなら、もしかして、そう考えただけで胸が苦しい、でも心地好い。ところでだ、なにを差し上げたら良いのだろうか。問題はそこなのだ。男の子の心は一応女の子な私には分からない。ただ少女マンガでよく見るのは手作りのお菓子だなとふと思い当たる。好き嫌いは、ないだろうか。

「なんだなんだ?すっかり乙女モードだな、名前は」
「う、煩いですよ、不知火さん!」
「照れ隠しか?かわいいやつめ」
「そういう台詞は夜久さんに言ってください」
「おー怖い怖い」
「…不知火さん、今度は私から質問です」
「なんだ、言ってみろ。俺に答えられないことはない!」
「じゃあ遠慮なく、」

東月くんの好きなタイプ、そう言えば飲んでた缶コーヒー無糖を吹き出した。正直に言う、汚い。ふざけんなという目で見てやれば慌てたように笑って、いくらなんでもあいつの好きな人の話を生徒会長様ができるわけないだろいや知らないわけではない知りたくはないがないいかこれ以上詮索以下略。唾を飛ばしながら力説されて正直更に汚い。クソ親父。

「異性じゃなくて、系統って意味なんですけど、シンプルなものとか」
「………」

答えられないものはない!なんて始めに啖呵を切ったくせに黙りこくってしまった全く戦力にならない生徒会長様を生徒会室に放置して、屋上庭園へと来た。今日は今日で空が綺麗だなあと思って写真を撮る。我ながら綺麗にとれたなあと自画自賛のできる写りならよかったのだが、前方に現れた人物が写り込んでしまっていて、

「君、今僕のこと盗撮しなかった?月子以外にそんなことされるのは納得いかない」

プリプリとちょっと怒り気味の土萌羊くんに、喧嘩を売られてしまった。いや怒りたいのは私の方だ、と思いつつここで私の悪い癖、そこに土萌くんが居ることも忘れてまた空に見入り写真を撮ってしまった。我ながら綺麗に撮れたなあ。ねえ、ちょっと聞いてるの?と若干怒り気味の土萌くんから、良い匂いがした。

「あっ、クッ、クッキー…!」
「もしかして、甘いものが好きなんだ!」
「う、うん!」

今から食べようとしてたんだけど一緒に食べようよ!と優しい言葉をかけてくれた土萌くん。先程までの出来事はお互いに忘れていて、ついでに、甘いものが好きなやつに悪いやつはいない、とキーもイントネーションも綺麗にハモったので笑ってしまった。休日の屋上庭園っていいよねーなんて言いつつお1つ頂戴して、口の中にいれるとふんわりと広がる甘い香。固さも味もちょうどよくて、市販ではなかなか見つけだせないような絶品。

「これ、錫也が作ったんだ」
「!?」

誰かの手作りなのだろうか、とは思った。無難に夜久さんあたりだと思っていた。そうしたらまさかの東月くんで、ああ料理上手なんだ手作りお菓子はアウトだな。そしてまた、錫也、という名前に過剰に反応してしまった。なんというデジャヴュ。するとみるみるうちにニヤニヤ顔になる土萌くん。なんというデジャヴュ。

「名前って錫也のこと好きなんだ!」
「…だからなんというデジャヴュ…」
「7月1日は錫也の誕生日だよ、君は何かしないの?」
「手作りお菓子、とか馬鹿なこと考えてました、無理こんなクッキー作れる人に手作りお菓子なんて無理無理!」
「錫也は料理上手だからね、錫也の作るおにぎりなんてすごく美味しいよ!」
「そうなんだ、うらやましい…、あっ!土萌くん!」
「何?」

東月くんの好きなものって何ですか!それを聞いた土萌くんは、意味深に笑って、秘密、とだけ言った。
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