錫也誕 | ナノ

東月錫也くん、の、誕生日、7月1日。それは私の頭の中をぐるぐるぐるぐるとまわり、まわるにまわってようやく離れたかと思えばほんの1秒でまた頭の中へと戻ってきた。さよなら。おかえり。この繰り返しで昨夜は全然眠れなかった。何かプレゼントがしたいとは思うけれど、東月くんが私を覚えている確率なんてほぼ100%ないと思っているので、でででもこのチャンスを逃したら。なんのチャンスなのだろうか、自分でも分からない、でも何かがしたいんだ、考えるという行為が頭から離れず、昼休みな今弁当を片手に、前方から向かってきた者にぶっつかってしまった。

「…って」
「いたっわっすすすすみません…!考え事をしてて、前が見えてませんでしたすみませんー!」
「おっおい!大丈夫だから頭あげろって!」

気づけば私は土下座をしていた、条件反射というやつだ。頭をあげろと言われ、殴られるのが怖くてあげられなかった。土下座というのは低姿勢を見せながら顔面をカバーできる神回避術なのだと今知った学習した私良い子。いいからあげろよ、と再度言われ既に怖じけづいている私はまたまた反射的に、殴らないでください。ぶつぶつと呪文を唱えるかのように謝罪の言葉を述べ続ける私、まわりからの視線に耐えられなくなったのかぶっつかってしまった人物は、ちょっと来い、と言って私を無理矢理起こし何処かへ連れて行こうとした。ここで初めて気づく、ぶつかったのは、七海哉太くんだった。

「あのなあ、あんなに謝られたら俺が悪い事したみたいな空気になるだろ!」
「すみませんすみません更にすみません」

連れて来られたのは屋上庭園だった。お昼ご飯を食べようと思っていた場所だったのでちょうどいい、そして今日は空が綺麗ですね。私は水色の空に雲が少しある空が好きだ。いつの間にか空に見入ってしまった私は、ハッと気付いたようにポケットからケータイを取出し、綺麗な空を写真に収めた。

「…お前、写真が好きなのか?」
「えっあっはいそうです勝手に写真とか撮りだして失礼ですよねすみませんすみません」
「べ、別に謝る必要ねーよ!俺、も、好きなんだ」
「へ?」
「写、真…」

これから昼飯か、私の持っているお弁当を見てそう言った。そうだと言えば一緒に食べてもいいかと言われたので寧ろ嬉しいですと返した、ら、七海くんがそれはそれは綺麗に笑うので不意打ちで写真に収めてやった。照れながら怒った後、ちょっと錫也にメール入れとくわ、と、彼は言った。錫也、東月錫也、くん。その名前に過剰反応してしまい、ようやく忘れられていたものが、再び私の頭の中をぐるりぐるりとまわりだした。すると今度はニヤニヤニヤニヤ笑う七海くんが視界に入った。

「お前、錫也のこと好きなのかー!そうかそうか!」
「…!」

一発でばれてしまった。私ってそんなにわかりやすいだろうか、不知火さんに色々ばれるのは星詠みかなにかだと勝手に思い込んでいたのだけれど、初対面の相手にこうも簡単にばれてしまうということは星詠みは関係ないかもしれない。

「良いこと教えてやるよ、7月1日って錫也の誕生日なんだぜ」
「知ってますよ…昨日不知火さんにも言われました…」
「お祝いとかしてやんねーの?」
「気持ち悪く、ないですかね」
「は」
「初対面の相手に、お祝いされるの、気持ち悪くないですか」
「さーな…まあでも錫也はそういうの、気持ち悪いとは思わないと思う、てか俺も思わない」
「…」
「そもそもお前さ、」
「…」
「あいつと既に対面してるだろ」
「…!」

受験票のやつだろ、そう言って声高らかに笑われた。もしかして、東月くんは、覚えているのだろうか。
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