(03:涙の理由(東月))


「なあ、何で泣いてるんだ?」
「…」

これは困ったものだ。
忘れ物を取りに行くべく教室へとむかうと啜り泣く音が聞こえた。高い音なので幼なじみかクラスメートどちらかの女の子だろうと思い教室に駆け込めば、クラスメートの方の女の子、なまえが居た。なまえの机は涙でびしょ濡れで彼女自身の目は若干だが腫れていた。彼女は何に泣かされているのだろう。理由を聞いても教えてくれない。ただ1つ彼女が俺に言うのは、

「おめでとう、幸せになってね」

一体お前は何のことを言ってるんだ?見に覚えがない。それに悲しそうだ。俺は一生懸命自分の記憶をあさってみる。





涙が止まらなかった。2人が幼なじみとして昔から仲良かったことも実はお互い意識していたのも分かってはいたはずだしそれも覚悟の上で錫也くん…いや東月くんには惚れていたはずだった。なのにいざ2人が付き合ったらこんなにも涙が止まらなくて、しかもそれを当人に見られて、迷惑をかけてしまっている。月子ちゃんのことは大好きなんだ。嫌いなんかじゃない。でも今だけは彼女に醜い感情を抱いてしまう。そんな自分が気に入らない。正直東月くんにはこの場に居てほしくはないのだけど、彼は優しいからこんな私を見捨ててはいけないのだろうな。そう思ったら月子ちゃんにも目の前の彼にも申し訳なくなって、より一層涙が出た。
涙というのは鬼畜なもので、コントロールができなければ目を腫らせてしまうのだ。心も目も痛い。

「どうして泣いてるんだ?」
「…」
「俺には言えないことなのか?」
「…」
「俺じゃ、頼りないかな」

眉を八の字にしている彼が今見ているのは私だけ。そう思ったら徐々に涙も止まってくる。彼は今私だけを見ている。親友の彼を目の前にしてこんな風に思うなんて私はなんて性悪なのだろうか。ごめんね月子ちゃん、月子ちゃんのことは大好きだよ。でも今だけは許してほしい。今、気持ちに整理をつけるから。

「ねえ、笑ってよ…悲しそうな顔しないで」
「その台詞そのまま返すよ」
「あのね、あのね、聞いてほしいことがあるんだ」
「なんだ?」
「…おめでとう…」
「なにが、」

ぽつりと言葉を漏らした瞬間、またドバっと涙が溢れでて、東月くんに抱きしめられてしまった。

「や、だ、だめだよ!」
「…」
「離してってば!」
「嫌だ」
「だめなの、お願い離して東月くん!」
「…!」

何で名字で、今度は彼が泣き出しそうになる。なんで君が泣き出しそうなんだろう。そんな彼を見て私ってば大概好かれてるよなあ友人としてなんてことを実感させられまた涙が止まらない。私がどんなに想っても違った愛情を渡される。正直、辛い。

「名前、呼んで」
「東月くん」
「違う…呼んでくれよ…」
「東月、くん」
「なんで名字なんだ?なまえ、俺、何かしたかな」
「けじめ、なの」
「けじめ…?」

東月くんが好きだから、でも東月くんは月子ちゃんのものだから。私はこのままだと月子ちゃんに醜い感情を抱いてしまうの。少しだけ、距離をおきたい。東月くんとの関係を一からやり直したい、友達として。

「なまえ、俺の名前呼んで?」
「…私の話、聞いてなかったでしょ」
「ははは、聞いてた聞いてた。かわいい勘違いだなあと思って」
「は」

「月子、羊と付き合ってるんだよ」
「…まじかよ」

メール入ってただろ、と呑気に笑う彼を横目にケータイをのぞけば本当に入ってた。

「涙の理由は?」
「錫也が、好き」
「…俺も」




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