木ノ瀬梓11

「せんぱい、」

彼の口から妖艶に囁かれる、その単語が大好きだった。ほら、今も妖艶に笑み、妖艶に囁いた。それに満足して笑めば梓くんはさらに笑んだ。ああ、なんて素敵なんだろう。

「梓くん、すきよ」
「僕は、愛してます」
「なら私も愛してる」
「両想いですね」

くすっと大人っぽく笑う彼にはたまに自分の方が年上だということを忘れさせられてしまうのだ。そんな、私の大好きな彼の手は、さも当たり前の如く、私の首にかかっている。

「せんぱい、愛してるんです」

それに動揺もせず、私は尚、愛してるわと返し続ける。そして梓くんはまた満足し、首にある力を強め、愛してると囁き続けるのだ。

「せんぱいだけを愛してるんです」
「私も」
「もっと僕に愛をください」
「…っ」

1回ごとに増える力は少ないけれど、それも長期に渡れば苦しくなり、本格的に意識が遠退き始める。自分の言葉への返答がないことに苛立ちを覚え始めたようだが、それでも、やっぱり梓くんはかっこいいのだ。

「どうして答えてくれないんですか…?」
「…」
「せんぱい、僕は、あなたのことを愛してます」
「…」
「答えてください!でないと僕は、あなたのことをこのまま…っ」
「あず、さく、」

あなたに愛されて殺されるなら、私は本望だよ。
最後の力を振り絞って、そういって、意識を離した。

「という夢をみました」
「おきまりのパターンですよね」
「お誕生日おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「プレゼントはありません」
「…」

何だコイツは、とでも言いたいかのような年下の彼氏の視線に耐えられない私が情けない。私の方が年上なんだからね。夢の中の梓くんは所謂ヤンデレというやつみたいだったが、もしかしたら現実よりかわいいんじゃないか。今私はとても愛を感じられない。

「じゃあ殺せばいいですか」
「え」
「愛してます、先輩」
「え、ちょ、ちょ、」

本気で首に手をかけてくる梓くんに焦って手を離すよう促す。それでも手は離してくれず、どんどんどんどん苦しくなっていく。ジ・エンド・オブ・私。

「冗談です」
「…鬼かと」

不意にぱっと手を離した梓くんは全力でむせる私を見て笑いながら、こう言うのだ。

「愛してるから殺すなんて僕からしたら馬鹿らしいです。愛してるからこそあなたといつまでも生きていきたいんですよ、ずっと隣で」


HAPPY BIRTHDAY!梓!




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