東月錫也1

「もう梅雨かな」

彼がそう言ったように、梅雨の時期になった。梅雨特有のジメジメとした暑さ、ワイシャツが腕にぺたぺたして心地が悪い。暑いよーと言うと下敷きをパタパタと扇いでくれた錫也に優しさを感じつつも生温い風に向き合えば涼しいんだか暑いんだか、はたまた涼しくて暑いのか、なんだか感覚が掴めなくなってきた。もういいよありがとう、錫也が笑ってどういたしましてと言う。ああ、平和だなあ。

「あっ、ハチだ」
「うっわっ!でっかいねこのハチ!」
「スズメバチかな?俺は虫は専門外だけど」
「え?スズヤバチ?ハチに種類なんてあったんだ」
「俺じゃなくてスズメな」
「私息の根とめてくる」
「は」

何言ってるんだ名前、錫也の言葉を無視して掃除用具入れから太すぎる箒を厳選し装備した。危ないからやめろ!なんて声私の耳には入ってこないなんだって獲物は目の前に居るんだから。そんなことを考えているとハチが壁で止まった。チャンスだ。迷うことなく箒を何回も振り下ろせばハチは動きをとめた。死んだそれを指でつかみ窓から外へと投げる。

「名前…お前…」
「スズヤバチなど私の敵ではない」
「だからスズメバチな」
「はいはい」

呆れたようにこちらを見る錫也を一瞥し、窓の方を見ていると今度はでっかいトンボが入ってきた。オニヤンマだな、オニヤマ?、オニヤンマだ。オニヤマだかオニヤンマだか知らないがこの私様の視界に入れば生きては帰さない。オニヤマ覚悟!と叫び再び箒を装備し仕留める。こやつも私の敵ではなかったか…とシミジミしていると錫也の更に呆れた声。

「お前はヘラクレスみたいだな」
「ヘラクレスってギリシャ神話に出てくる?詳しくないけど」
「獅子座と蟹座の話は前にしただろ?」
「あー!うんした!化け物倒した人だヘラクレスって!かっこいいー!」
「そうそう。今の様はまるでヘラクレスだな」
「じゃあ」

錫也はヘラクレスに倒される巨大な化けガニだね。何で俺が化けガニなんだ?だって錫也は蟹座だもん。そう言えば錫也ははははっと笑った。たまに見せる腹黒い一面はまさに化け物だなと思ったけど言ったら化け物錫也を垣間見ることになるのでやめておこう。

「まあ、名前に倒されるなら本望かな」
「錫也スズヤバチと同じ運命?」
「だからスズメバチな」




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