連載 | ナノ


名前さんじゃないですか、奇遇ですね。そういいながら木ノ瀬くんは私の前イコールレジの前へとやってきた。奇遇も何も私はここでバイトしていると言ってある気がするんですがね。まあそんなことはどうでもいいんだけれど、私は、その後ろの彼が気になる。

「名前さん、今日もかわいらしいですね」
「はあ…」
「今日は髪を纏めてるんですか、いつも以上にかわいらしい」
「…」
「どうしました、黙りこくって…照れているんですか」
「…」

この間の木ノ瀬くん連発の恥ずかしい台詞には驚いた私だけれど、昨日アドレスを交換した月子ちゃん。どうやら木ノ瀬くんは月子ちゃんと同じ弓道部らしくて、そこでも月子ちゃんにいろいろと言っているらしいのだ。思わず、もしかして木ノ瀬くんって女好き?、と聞いたら、木ノ瀬くんはムッとしたような顔になった。

「どうしてですか」
「月子ちゃんのことも私のことも褒めちぎるっていうか、綺麗とかかわいらしいとか…いや私のことを女の子扱いしてくれるのは嬉しいんですけど、」
「…夜久先輩に言う綺麗は射形のことです。名前さんのは、」
「ぬははーーー!これが購買かーーーー!」
「翼…」
「ぬぬ!?梓なんか怒ってる!?」
「ついてくるなって言っただろ!!」

ギャーギャーと目の前で口喧嘩をされ、七海くんと土萌くんのようだと思った。木ノ瀬くんに思いっきり叱られているのに、翼くんって子は怖がりながらもどこか楽しそうでなんだか微笑ましい。お友達なんですか、と木ノ瀬くんに聞いたら、従兄弟です、と返ってきた。血のつながりがあるのね、つい2人の身長の差に注目してしまった。いけないいけない。きっと気にしてるよね、男の子だもの。

「お!お前が名前か!梓が言ってた!」
「ふふ、そうですよー君は翼くん?」
「天羽翼、よろしくな」
「よろしくね!翼くん!」
「ちょっとちょっと!ちょっと待ってください!」
「ぬぬ?梓どうしたんだ?」
「なんで翼のことは名前呼びで僕のことは名字呼びなんですか!」
「えーっと、なんでだろ…」
「僕のことも名前で呼んでください」
「…」
「…」
「…梓、くん」
「名前さん、」

翼くんって呼ぶのは全然抵抗ないのに、梓くんって呼ぶのはなんだか恥ずかしい。なんでかはさっぱりだけれど、顔、赤くなってないかな。