連載 | ナノ


「この焼きそばパンは俺のだ!」
「何言ってるの!僕のに決まってるでしょ!」

今日もパンがよく売れたなーと1つだけ残っている焼きそばパンとホイップパンを平和に眺めていた。ボーッと眺めていたらいきなり視界から焼きそばパンが消えびっくりしていると、どうやら2本の手が焼きそばパンを奪い合っているようだった。これは俺のだ、僕のだ、なんて言い合いしながら2人で焼きそばパンを持ちながらレジへと向かってきて、そのまま目の前で喧嘩をされている。

「ねえ、君は僕とこの馬鹿とどっちに食べられるのが、焼きそばパンは喜ぶと思う!?」
「え!私!?」
「おい馬鹿って言うな!お前こそ馬鹿だこのひつじ野郎!」
「ひつじって呼ぶな!君って本当にバ哉太!で、」

どっちなの、どっちなんだよ、綺麗にハモりながら私に投げ掛けられた。何故私に聞くんですか、あははと笑ってごまかそうとしても2人はさっさと答えろとでも言わんばかりの無言の圧力。2人で割り勘して半分ずつ食べるのが焼きそばパンにとっては幸せなんじゃないのかな、って返せば2人は私を役立たずだと判断したのか再び口論を始めた。この状況は結構困る。

「こーら、哉太、羊。レジのお姉さんが困ってるだろ?」

声のする方に目線を合わせればこの間のホイップパンのお兄さんとその彼女さん。なんて救世主!

「こんにちは、この間はホイップパンありがとうございました。ほら、月子もちゃんとお礼言わないと」
「初めまして、夜久月子です!この間はホイップパンありがとうございました、すっごく美味しかった」
「いえいえ、夜久さんみたいな方に味わってもらえたなんてホイップパンも幸せだと思いますよ、こちらこそありがとうございました」
「そ、そんな!…あの、よろしければ、お名前聞いてもいいですか?その、私この学園に女の子のお友達が居なくて…」
「学園、女の子1人なんですもんね。大変ですよね、私は苗字名前です。よろしくね、月子ちゃん」
「う、うん!よろしくね名前ちゃん!」

照れたように笑う月子ちゃんがとてもかわいらしくて心のそこからの胸きゅん。こんなかわいらしい彼女を持って幸せですね、と救世主なお兄さんに声かければ、彼女じゃなくて大切な幼なじみです、と返ってきた。さっさと捕まえないと誰かに取られるぞー。

「天文科2年の東月錫也です、月子共々よろしくな」
「東月くんですねーよろしくお願いします」
「敬語は要らない。俺の方が年下なんじゃ、」
「年齢は不詳で通ってますので不詳にしておきます」
「はは、意地悪だなあ。でもとりあえず敬語は要らないからな」
「ふふ、了解。よろしくね東月くん」
「っておいおい!俺達を無視するな!」

焼きそばパンは結局、七海くんと土萌くんの手には渡らず、東月くんが買って月子ちゃんが食べました。