連載 | ナノ


「今すぐその人から離れろ、然もないとただでは帰しませんよ」

人生で初めてというわけでもないが、宮地くんが居なくなってすぐ、ナンパにあった。まるで見計らっていたかのようなタイミングで思わず眉間にシワを寄せたが、相手は私の話をさっぱり聞いてくれない。学園内のナンパってどういうことなんだろうか、昼休みの女の子はこんな経験を何度もしてきたのだろうか。彼氏さん頑張って守ってね、なんて考えていたらメアドを強要されかけた、もうなんなの、若干涙目になっていたら、緑のネクタイの男の子が助けてくれた、?

「あ?お前誰だ?」
「僕ですか?」
「…あ、君、この前の膝の!」
「宇宙科1年の木ノ瀬梓、ですよ、保健室のお姉さん。…あ、あなたたちまだ居たんですか忘れてた」
「てめえ!先輩様なめてんじゃねーぞ!」
「あー宮地先輩が戻ってきますねーあれは絶対に怒ってる顔です、雷落ちるのかなあ」

宮地…!?そう言って慌てたように走って逃げて行った。私の今の表情はまさに、ぽかん、というような顔であの人たちは一体なんだったんだろう…怖くなかったと言えば嘘になるけれど、宮地くんの名前を出した途端の呆気なさに若干びっくりしてしまった。

「大丈夫ですか」
「大丈夫、です…木ノ瀬くん?ありがとうございます」
「怖かったですよね、遅くなってすみません…」
「え!そんな!むしろありがとうございますありがとうございます!」
「ふふ、あはは!あなたすごい面白い顔してましたよ、今」

自分がどんな顔をしていたのか全然分からないのに、思いっきり笑われてしまって何だか恥ずかしい。恐らく今度は顔を赤くしたであろう私を見て、木ノ瀬くんは更に笑うのでもう恥ずかしいことこの上ない。私だって、って思って改めて木ノ瀬くんを見たら、とても綺麗な文句の付けようもないお顔立ちをされていた。強いて言うなら、前髪。

「あなたの名前、教えてもらっても良いですか?」
「苗字名前です」
「名前さん、とてもかわいらしいお名前ですね。ですが見た目はそれ以上にかわいらしくて、僕、」
「木ノ瀬!お前は一体何をしているんだ!」
「げ。宮地先輩本物」
「げ、とはなんだ!苗字をたぶらかすんじゃない!」
「たぶらかすなんて人聞きの悪い。僕は正直な気持ちを名前さんに伝えているだけですよ」
「お前なあ!コイツは、」
「名前さんって普段は何をしているんですか?この学園の生徒ではないですよね」
「購買でバイトしてるんですよ」
「ふふ、今度遊びに行きますね」

木ノ瀬くんが楽しそうに笑って、宮地くんが無視をされて怒って、私がもしこの学園の生徒だったら、っていう妄想。