連載 | ナノ


お膝の子は手当したらすぐに、部活がありますので、と言って帰っていった。保健室の来客者って結構多いのかな、なんて思っていたけれどしばらく誰も来ない、保健室に響き渡るのは琥太郎くんの綺麗な寝息。寝息まで綺麗だなんてこいつあどうかしてるぜ、やることがすっかりなくなった私は片付けの続きをすることに決める。大方片付いた時、琥太郎くんアットマーク策士にはまっている気がして、なんとなく嫌になった。

「せんせー…っと、名前じゃないか!」
「あっ直獅くん!お久しぶりですー」
「おう!久しぶり!ところで、何やってんだ?」
「琥太郎くんはいつもの如く、職務怠慢中です」

困ったように笑う顔もかわいい、直獅くんはこの学園の教師で琥太郎くん経由に知り合ったのだけれど、すごく良い人でいつもお世話になっている。お茶入れるから一緒にお話しない?と誘えば、クッキー持ってきたんだ!生徒からの差し入れ!と嬉しそうに笑った。日本茶にクッキーね、組み合わせには若干失笑。

「いやーお前のお茶は本当に美味いな!俺、好きなんだ」
「お茶に美味いもまずいもあるの?」
「あるよ、ある…ある」
「…はあ」

何かを思い出したのか、白目になりそうな直獅くんをチラ見してクッキーをぱくり。美味しいなあ。この学園の生徒が作ったクッキーということは男子生徒が作った確率の方が遥かに高いわけで、なんてオトメンなんだろう、女子力を切実にわけてほしい。そして職務怠慢保健医様の御起床、俺にも煎れろ、と頭にぽんと手を置かれた。今の今まで寝てたやつがなんて偉そうなんだか、許せない、困り者だ。

「それにしても、日本茶にクッキーって組み合わせはどうなんだ?」
「それは私も思ったけど、保健医が職務怠慢もどうなんだ?」
「うーん…うー…ん…」
「直獅、いきなり唸り出してどうした」

いきなり、うーん、と言って眉をひそめたり、うあああ、と言って顔を真っ赤にさせたり。行動と表情と言動がなにもかもバラバラな不自然すぎる直獅くんを見て思わず吹き出してしまった。そうしたら直獅くんはすかさず顔を真っ赤にして怒るので、どうしたんですか悩みなら言ってくださいよ、と返せば、

「2人ってどういう関係なんだ?名前は琥太郎先生に不満を漏らしつつも必ず尽くすし、琥太郎先生も琥太郎先生でこんなに他人に心を許してるのも名前くらいだし…」
「…」
「あっいやっ別に少し気になっただけだから!答えなくてもいいんだぞ!」
「…琥太郎くん、絶対直獅くんに言ってると思ってた」
「面倒なことはしない主義だ」
「はは、はなすと長くなるもんね、気が向いたらね直獅くん」