8
ほろ酔いの千鳥足で、大野草平は我が家にたどり着く。
時刻は10時を回ったところ。親睦会で少しビールと焼酎を飲みすぎた草平は、インターフォンをぽちぽちと二連打した。
「おーい、おとうさんのおかえりだぞー」
インターフォンを押して暫く待っても誰も出てこない。そういえば、玄関もリビングの暗い。リビングの窓にはカーテンすらかかっていない。
何時もなら直ぐに可愛い弟が出迎えてくれるし、気が向けば息子たちも部屋から出てきてくれる。
「もう寝たのか〜?」
酔いの回った草平は特に不審に思わなかった。大きな欠伸をひとつして、ドアノブを一応回す。
ぎい、玄関が口を開けて草平を迎え入れる。
なんで鍵もかけてないんだ?
草平は真っ暗な廊下に上がり、ようやく違和感を覚えた。
しん、と家内は静まりかえっている。テレビの音も、給湯器の駆動音や声も無い
。
どこかに出かけている? いや、そんなはずは無い。鍵もかけないで留守にするなんて、周平がするとは思えない。
まさか……泥棒か?
急速に酔いが冷めていく。草平は鞄を廊下の床に置き、傘立てに刺してあった眺めのコウモリ傘を取る。武器にしてはやや頼りないが、丸腰よりはマシだろう。
草平は足音を殺して暗い家を調べる。インターフォンを鳴らしているから、もし誰か居るなら草平の帰宅には気付かれているはずだ。草平は慎重に、リビングの明かりをつけた。
ぱ、と蛍光灯がリビングを照らす。
誰もいない。
テーブルの上に開かれたままのノートパソコンが置かれていて、床には資料が散乱している。
フカフカのベッドソファーには、見慣れた部屋着がくしゃくしゃになって投げ捨てられていた。
どれも周平のモノだ。
長い時間放置されていたからパソコンはスリープモードに入っている。
草平は床に散らばったプリントアウトされた資料を拾いあげる。几帳面な周平が仕事の資料を雑に扱うとも思えない。それに、部屋着をリビングに散らかしていくのもおかしい。
やはり、なにかあったのか?
ぎし、ぎし、ぎし
草平の耳に微かに音が届く。まるで、ベッドが軋むような音だ。
「……」
草平は傘を握り直し、音の方向へ向かった。
音の方向は、リビングの真上。……周平の部屋からだ。
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