5

「あ、ちょ……おい、なんなんだ?」

那智に手を引かれてテーブルから起こされる。その拍子にパサパサと資料が宙を舞った。
周平はふかふかの柔らかいソファーベッドに投げ込まれて仰向けにひっくり返った。

「わっ……こらっ! なにする……」
「シュウくん。まだわかってないんだ?」
「……はぁ? ……とにかく、お前らは早く学校にーー」

周平が体を起こして叱ろうと開いた口を、那智の唇が塞いだ。
むぐ、と息が詰まる。
柔らかい。ほんのりと甘い味がする。ガムでも噛んでいたのだろうか?

周平はあまりの事に思考が止まった。
無遠慮に舌が周平の口内に入り込む。ぬるりと熱い那智の舌は、周平の歯列をなぞり、無理やり舌と舌を絡ませてくる。

「んむっむぁぅ……っ」

もがいても離れることは出来ない。周平の体を智樹ががっちり押さえ込んでいるからだ。

なぜ、俺は甥にキスされてるんだ?

周平は酸欠に逆上せる頭の片隅で考える。那智の舌はいくら逃げても周平の舌を追いかけて捕まえ、ねっとりと絡み合わせて唾液を交換してくる。

周平は涙を浮かべた瞳で、自分を押さえつける智樹を見た。智樹は暗く曇る表情の影に、僅かな興奮を隠しているようだ。周平と目が合うと、智樹ははっと力を緩めた。

「っ……!」

ばん、と緩んだ拘束を払い、覆い被さる那智を突き飛ばす。那智はよろめき、床に尻餅をついた。

「げほっ……な、那智っ、おま、おまえ自分がなにしたかわかってんのか!?」
「いてて……なにって、キス」

那智はぶつけた箇所を摩りながら立ち上がり、悪びれもせずに言った。

「なんでこんなことをしたのか聞いてるんだ! 冗談にしては悪趣味だぞ?!」
「なんでって……シュウくんとキスしたかったから」

冗談のつもりはないよ。
那智は微笑を浮かべる。その笑みは見慣れたはずのものなのに、周平は恐怖を感じずにはいられなかった。

「っ……と、智樹! おまえは、おまえはどうしたんだ!? こんな悪趣味に付き合うような奴じゃないだろ?!」

那智から目を逸らした周平は、無言を貫く智樹に救いを求めた。先ほどまで自分を拘束していた相手だが、それでも那智よりは会話が成立するだろう。

そんな希望的観測は直ぐに打ち壊された。

「……シュウ。俺もしたい」






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