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「さて、そろそろ出る。ああ、今日は少し遅くなるから、先に寝ててくれ」
「わかってる。前から予定あった親睦会だろ? あんまり飲みすぎるなよ」
「はいはい……周平」

玄関先で唇が重なる。舌が伸びてきて周平の口内を嬲り、たっぷり一分ほど堪能してから離れていく。

「ん……はぁ。……兄貴、朝からそういうのやめろ」
「だめか? 新婚夫婦みたいで俺は気に入ってるんだが」
「何十年も一緒にいて新婚夫婦もくそもないだろ」

照れ隠しでソッポを向いた周平に、草平はクスクス笑った。


全員が出払うと、周平は洗濯機を回しながらノートパソコンを立ち上げる。
周平の本業はライターだ。筆はそこそこ早い方なので、主夫業とも両立できていた。

少しの間キーボードを叩いていた周平だったが、直ぐに中断することになった。
学校へ向かったはずの双子が、揃って帰ってきたのだ。

「お前らどうしたんだ?」

周平が驚きの表情で迎え入れると、双子は顔を見合わせた。
どことなく、雰囲気が張り詰めている。不機嫌なのか、二人とも表情が暗く重い。あまり明るいとはいえない智樹はともかく、普段ヘラヘラと調子のよい那智までそんな態度だから、周平も吊られて強張った。

「ちょっとね。……父さん、出た?」
「え、ああ……兄さんなら会社に行ったけど……。那智? 具合でも悪いのか?」
「んーん、違うよ。……あー、でも……うん、まあ、そうだね。そんなとこかな?」

煮え切らない返事だ。那智は視線を泳がせてこちらを見ようとしない。
周平は嘆息をつき、智樹にターゲットを変えた。

「智樹、学校はどうした?」
「…………シュウに、話がある」
「はなし? それなら帰ってからでいいだろう? ほら、具合悪いんじゃないなら、さっさと学校へ行け。遅刻だけど、一限には間に合うだろ」

周平は双子の肩を押して促したが、二人ともビクともしない。筋肉質な智樹だけでなく
細身だと思っていた那智が意外としっかりした体躯で驚いた。

「シュウくん。今じゃなきゃダメなんだよ」

那智はそう言って、周平の手を掴んだ。


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