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大野家の中で最も早起きなのは、炊事担当の周平だ。
いつものように欠伸をつきながら、手慣れた様子で冷蔵庫を開けて材料を取り出す。
よく熱したフライパンに卵を割りいれる。じゅうじゅうと泡立ち凝固していく白身の縁に水を注いで蓋をして蒸し焼きにする。
じじじ、とトースターでは厚切りのパンが焼かれ、コーヒーメーカーはゴポゴポと珈琲の雫を落としていた。
「ふんふ〜ん……おっと、半熟半熟」
目玉焼きの好みは家族それぞれ違う。周平と那智は半熟派、草平と朋也は両面焼き派だ。
半熟分を皿に取り分け、残りはフライ返しでひっくり返してさらに焼く。
「シュウくん、おはよ〜」
朝食の支度もそこそこの頃に起きてきたのは大野家の長男、那智。ボサボサの髪をかき上げながら、那智は冷蔵庫を開けて牛乳を取り出す。
「あ、シュウくん、これ消費期限切れてるよ」
「1日くらい平気だって」
「えー、俺繊細だし〜」
「はいはい、わかったわかった。ちゃんと今日買ってくるから、今は我慢な?」
那智の後に起きてきたのは次男の智樹。那智とそっくりな顔だが、こちらは那智よりも髪が短くて筋肉質だ。
「……シュウ、おはよう」
「おはよう智樹。おまえは珈琲でいいよな?」
「ん。……砂糖ひとつ」
「わかってるよ」
那智と智樹は双子だ。昔は区別がつかないほど似ていたが、高校に上がって那智が写真部、智樹が水泳部に入ると大分違い見分けがつくようになった。
具体的には、今風の細身でチャラい雰囲気が那智、かっちりしていて硬派な雰囲気が智樹だ。
この二人は周平の甥っ子だ。双子が幼い頃に母親が亡くなり、父方にも母方にも親戚があまりいないため双子の赤ん坊を男手一つで育てるのも流石に大変だからと手伝っていた周平は、いろいろあってこの家に留まっている。
「……親父、まだ寝てるのか」
焼きあがったトーストにがしがしとバターを塗りながら智樹が言う。
「ん、あーそうみたいだな。……ここ最近仕事が忙しかったから、疲れてるんだろ。ちょっと起こしてくるか」
「シュウくんが行かなくてもいいよ。そのうち起きてくるって」
兄を起こしに行こうとエプロンを脱いだところで那智が止めた。
「それよりシュウくん、トーストもう一枚焼いて〜」
「シュウ、俺ももう一枚」
「ああ、はいはい。ったく、ほんとよく食べるな。流石成長期だ」
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