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case オマケ 長官の憂鬱
「……さて、お前たち。呼ばれた理由はわかってるな?」
此処は長官の執務室。レッド、ブルー、グリーン、そして見習いのピンクが集められている。
ブラックこと長官は若手ヒーローの顔をじろりと見回し、ため息を吐いた。
「まずはレッド! 怪人を改心させるところは良い、文句は無い。だが、その怪人たちが悉くお前な惚れているのはなぜだ! さっきもお前の連れてきた怪人たちがお前を巡って口論していたぞ!」
「なぜと言われましても……なぜでしょう?」
レッドは首を捻る。レッド本人は本当にわかっていないのだ、自分が天然ジゴロ体質だということを。
「今のところは理性を保っているが、暴力沙汰になっては不味い。ちゃんと言い聞かせて置くように!」
「はいっ!」
そしてそのうち刺されるぞ、お前。
長官は言葉を飲み込んだ。正直手に余るからだ。
続いてブルー。なのだが、長官は彼の足元に視線をやり、ことさらアンニュイなため息を吐いた。
「ブルー……おまえ、その子はなんだ?」
「オレのペット」
「わん!」
ブルーの足元に座り込んでじゃれつく、年端もいかない少年怪人。彼は元気よく吠え、そしてブルーの足に体を擦り付ける。ぴょこぴょこと尻尾が揺れて、なんともほのぼのとした気持ちに……なれるか!
「ペットじゃない! おまえはヒーローだろうが! どこの世界に怪人をペット調教するヒーローがいるんだ!? というかその子で何人目だ!?」
「長官の目の前に。あと、こいつで確か4匹目」
「…………」
「そんなかっかしないでも。ちゃんと面倒見ますって。飼い主として」
「……………………はぁ」
もうやだ、フリーダムすぎるだろこのブルー……。
まあ、ブルーが責任を持って世話をするならそれはそれでいい。いやよくはないが、この本部に置いておける数は限りがある。改造されたままの少年を親元に返す訳にもいかないのだ。
「少年……すまないが少しだけでまっててくれ。組織を打倒して改造手術の詳細が判明すれば直ぐに元の体に戻してあげるからな」
「わん?」
せめて日本語で頼む……!
「長官、そんな落ち込まないで? お、おれはちゃんとヒーローとして頑張ります!」
ピンクが力一杯頷く。
長官はピンクの報告書に目を通す。
「……空き缶拾い、ゴミの分別、資源ごみの回収……」
「はい! 少しでも街を綺麗にして市民のために頑張ります!」
胸を張るピンク。見習いヒーローは、少しというかだいぶピントがズレている。
一生懸命なのはわかるが、ピンクよ……それはヒーローというよりボランティア……。いや、もはや何も言うまい。
「……最後はグリーン。お前の直前の任務は何だった?」
「えーと……怪人に奪われた研究資料の奪還……」
「怪人は捕縛した。そこは認める。だが、その肝心の資料は?」
任務から戻ったグリーンは、泥のように眠る怪人を抱き抱えていた。怪人の捕縛に成功したのだから、当然資料も回収したはず……なのに。
「……あ、忘れてました」
グリーンはのんびりと答える。
忘れてたのか、なら仕方ない……わけないだろうが!
「お前たちはヒーローとしての自覚が薄すぎる!!」
長官が雷を落とす。
レッドはやたら真っ直ぐな眼差しで、ブルーは面倒くさそうに、グリーンはあくびをして、ピンクはしゅんとしょげ返る。
長官の胃が休まる日は、まだまだ遠いようだ。
戦えヒーロー!
真の平和が訪れる、その日まで!
とりあえず終わり。
もしかしたら続くかも?
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