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「ど、どうでしょ?」
「うーん……5点かな」
「……10点満点で?」
「いや、30点満点で」

俺が生まれて初めていれたドリップ珈琲の評価は散々だった。
うん、まあ、仕方ない。だって、豆も均一に挽けなかったして、お湯もだばって出ちゃったし、オマケに豆が溢れてカップに入るし…自分でも飲んだけど、くそ不味い。
マスターが普段使う豆を俺なんかが使ってもゴミを錬成するだけだった。落ち込むなぁ、珈琲好きなんだけど、不器用だし。

「マスター、それ、無理して飲まなくても」
「折角淹れたものだからね」

マスターは不味い俺の珈琲を全部飲んだ。カップのそこに挽いた豆が残ってる、多分口の中でジャリジャリいってるのに、マスターは涼しい顔だ。やだ……かっこいい! ……はぁ、虚しい。

「どれ、手本がてら口直しをいれようか。智哉くんは座って見てて」

マスターはカウンターに立ち、カリカリとミルを挽いた。
実は手挽きするのは珍しい。大抵は後ろの電動ミルでガーッと挽いてしまう。
マスター本人は手挽きが好みらしいが、流石にお客一人一人にやってたら時間も足りないし腱鞘炎になるんだろう。

あ、じゃあ俺は何気に役得だな。

「マスターが珈琲淹れるときとか、なんかかっこいいですよね。立ち振る舞い? って言うんすかね。この前の若い女のお客、完全にマスターに惚れてましたよ」
「はは。おじさんを揶揄うものじゃないよ」

余裕の笑み、なるほど、これがモテる男の態度か。

「……モテるか」

ぴた、とマスターがミルを回す手を止めた。
どうしたんだ。まさかほんとに腱鞘炎?! まずい一大事だ、俺の珈琲はくそ不味いぞ?!

「私はモテたいひとたちにはさっぱり縁がなかったよ。いつも振られてばかりだった」
「え、マジですか? マスター振るとか、なんか凄そうな女っすね」
「……ふふ」

マスター、なんでそんな顔してるんだ?
もう玉ねぎないよ?
なんで、泣きそうなんだよ……。




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