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「マスターってなんで独身なんすか? モテるでしょ?」
「うーん……まあ、いろいろ理由はあるさ」

俺が洗い物しながら、なんと無しの世間話を振ると、マスターは玉ねぎを刻みながら口籠った。
あ、これ地雷かも。やばい、怒ってるかな。
泡がついたまま、俺はそっとマスターを伺った。泣いてる……あ、玉ねぎか。

「智哉くんはどうなんだい? 大学で恋人見つけたり」
「そこら辺に落ちてたら拾うんですけどねー。ぜんっぜん、好みの女はもうお手つきだし、俺に近寄ってくるのはケバい女だけっすよ」

俺は化粧の濃い女が嫌いだ。なんかダメだ、匂いか? 香水とかファンデとか、身体が受け付けない。そういや偶に男でも香水つけてるやついるけど、そういうヤツの頭殴りたくなる。

匂い、といえばマスターはいい匂いがするな。珈琲豆のほろ苦い感じが染み付いてて。
そういや、甘い匂いの女は舐めたら甘そうってほざいたバカがいたけど、マスターは舐めたら苦いのか?

「智哉くん、賄い出来たよ。裏で食べといで」

賄いは玉子丼だった。喫茶店なのに、純和風。でもこれが美味いんだよなぁ。

俺はバックヤードにある小さなテーブルと椅子に落ち着き、もくもくと玉子丼を食べた。味噌汁の代わりにコーンスープ、へんな取り合わせだが、意外とマッチする。

ふと、窓に雨粒がぶつかった。
あーあ、降ってきちゃった。こりゃ、本降りだな。
客足が遠のく雨の日は、マスターは俺を早く帰す。早く上がれるのは嬉しいが、時給はもちろん減る。それに俺は彼女もいないし、家に帰ってママ上様の華麗なるお小言を頂戴したいとは思えない、マゾじゃないからな。

だから、雨は嫌いだ。

「マスター、ご馳走さまでした」
「はい、お粗末様。智哉くん、雨降ってきちゃったし、お客様もさっき帰られたから」
「あ、はい。……帰らないと、ダメっすか?」

俺が何となく粘ると、マスターは少しだけ驚いたような表情を見せた。あー、マスターって目、焦げ茶なんだ。

「それなら…珈琲、練習してみるかい?」




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