3

私が坊ちゃんの方を向くと、坊ちゃんは遊具から軽やかに飛び降りて、そのまま私の肩を掴んだ。
もう背丈もすっかり追い越された。目線も、ほんの数年前までは私の方がずっと高かったのに。

「やっと身長追い越せた」

坊ちゃんがそう言って笑う。
なかなか背が伸びなかった坊ちゃんは、毎日牛乳やヨーグルトを食べていた。乳製品が好きではなかったらしいので大変だっただろう。

そうですね。私がそう返事を返そうと口を開いた瞬間、事は起こった。

「ん…む? んんっーー!?」

唇が塞がれて言葉が消える。私の唇を塞いでいるのは、坊ちゃんの唇だった。
ぬる、と柔らかな舌が唇を割り開いて進入してくる。慌てて身を引こうとしたが、肩を掴まれて動けない。

歯列をなぞられ、上顎を舐め上げられた。逃げる私の舌を坊ちゃんの舌が執拗に追いかけてきて絡め取られる。唾液が重なった唇の隙間から伝い落ち、息が苦しくなっていく。

「んっんん……っぷぁっ?! はぁっ、はぁっ、な、何をなさるんですかイヅル様!」
「ん? キスだけど」

さらっと坊ちゃんは言ってのけ、再び私に唇を寄せてきた。私は慌てて身を翻して坊ちゃんの腕から逃れ、後退りした。

「幾ら何でも悪ふざけが過ぎますっ。イヅル様、もう時間もありませんから、屋敷に戻りますよ!」
「んー……わかった」

意外なほどあっさりと坊ちゃんは頷き、私は安堵した。先程のはほんの戯れにすぎないのだと、自分を納得させる。
今時の高校生は、同性同士でキスくらいするのかもしれない。そう考えながら私は車の後部座席のドアを開けて坊ちゃんを待った。

「ほんとにさ、巴は真面目だよな。だから簡単に騙されちゃうんだよ」
「え……ぅあっ?!」

そんな声が背後からしたと思ったら、どん、と私は背中を強かに押し出され、後部座席に転がり押された。





[ 26/95 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -