バースデイ 1

腕時計を確認し、坊ちゃんの帰りを待つ。そろそろ時間だ。

校門からゆらゆら歩いてくる姿をみとめ、私は思わず笑みをこぼした。ふらふらだ、そんな沢山のプレゼント、きっと他の生徒は羨ましがるだろう。

「お帰りなさいませ、イヅル様。……沢山いただいたようですね」
「重い…巴、早くトランク開けろ。腕しんどい」

トランクを開け、プレゼントを詰める。
今日はイヅル坊ちゃんの18の誕生日だ。古き血筋に生まれ、ゆくゆくは財団を背負う身の坊ちゃんにアピールしたい女子も多いのだろう。法律で言えば坊ちゃんは今日から結婚できるのだから。

「あー、しんどかった。作り笑いしすぎて顔が可笑しくなりそうだ」

それに坊ちゃんは見目も良く、例え御曹子でなくとも近づきたくなる魅力がある。これはきっと、長い間世話をしてきた私の、身内の欲目もあるかもしれないが。

「巴、出してくれ」
「畏まりました」

後部座席にイヅル坊ちゃんを乗せて私は車を発進させる。
坊ちゃんの様子をバックミラー越しに確かめる。機嫌は悪くなさそうだ。スマートフォンでゲームを始めている。
この後も財団の誕生会やら親族の集まりがあるから、機嫌がいいに越したことはない。

「イヅル様、今夜は色々と忙しくなりますのでこのまま屋敷へ戻りますがよろしいでしょうか?」
「ん、いいよ。……なあ巴」

坊ちゃんがスマートフォンから顔を上げ、バックミラー越しに私を見つめ返す。
少し前までは母上様によく似た可愛らしい面立ちだったが、今では凛々しさは残したまま雄々しい風格が現れ始めている。

「なんでしょう」
「今日さ、学校でいろんな奴からプレゼント貰ったり、この後も親族やら親の付き合いやらで貰うんだけど。……お前からは何か無いの?」
「私から、ですか」

これは珍しい。坊ちゃんが私にものを強請ることなんて過去に照らしてもあまり例が無い。
坊ちゃんは子供の頃から聞き分けがよく、聡明な方だった。
私に我儘を言うときは、本当に戯れ程度。例えば流行りのお菓子を食べてみたいだとか、夜抜け出して星が見たいだとか、そんな御両親には秘密にしておきたい些細なお願いだ。

私は少しだけ嬉しく思った。坊ちゃんが珍しく甘えて下さっている。

「もちろん用意しております。使用人一同からイヅル様に…」
「それは他の奴も引っくるめてだろ? それはもちろん嬉しいさ。けど俺は……巴だけからのプレゼントが欲しい」

これは困った。毎年使用人一同からの連盟で予算を出し合ってプレゼントを贈っているが、それではご不満の様子。
さて、どうしたものか。私の給与は十分な程貰っているが、坊ちゃんが満足するような品を用意するとなると……。

「巴。お前なんか小難しく考えるだろ?」

くっくっ、と坊ちゃんが喉を鳴らして笑う。その仕草、年々旦那様に似てきている。

「申し訳ありませんイヅル様。私には何を用意すればいいのか検討もつかず……」
「……じゃあさ、ちょっとだけ寄り道しよう」
「ですが、この後は」
「わかってる、少しだけ、な? 俺の誕生日なんだ、かわいい我儘くらいきいてくれよ」




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