最近、Litterというものにハマっている。簡単に説明するとそれぞれのユーザーが短い文を投稿して、閲覧できるコミュニケーション・サービスだ。初めは何が楽しいのか分からなかったけど、今は合間があればいつでも見ている。だって最近のニュースとかもこれを見てればテレビなんかいらないんだぜ。情報もかなり豊富だし。(まあたまに間違っているのもあるけどね。)それに相手が誰か分からないって所もいい。俺なんて職業が職業だしさ。あと、数ヵ月前に「eil」っていうめちゃくちゃ馬が合う知り合いができて、ここ毎日が楽しい。相手は俺と同い年の男で、大学に通っている。かなりパソコンに精通していて、話していて面白い。大学であった事や、家族の会話とかもすっげー面白く話してくれて、ちょっと羨ましかったりする。俺も普通の家庭で育ってたら、こんな風になって、「eil」みたいな奴と馬鹿やったりしたのかなって。「eil」がよくオフ会しようってよく言ってくれるんだけど、なかなか気が進まない。だって、俺が警察なの向こう知らないし。いや、それ以上に俺は自分の事を一切話してない。なんか、やっぱ他人に過去とか今とか知られるの嫌なんだよね。勝手に同情されたり、哀れまれたりするのは絶対ヤダ。「eil」ならきっとそんな事はしないと思うけど、まだ、ね。こんな風に言い訳みたいな事言ってるけど、最終的にリアルの自分に自信がないだけだ。「eil」はいつも自信がみなぎっているってよく感じる。別にナルシストとかじゃねーよ?なんか毎日がいきいきしていて、輝いてるって意味ね。言い換えれば、現実の残酷さを知らなすぎるって事かもしれねーけど。とにかく、「eil」とのオフ会の話を避け続ける日々が続いた。そして、ある日突然「eil」のアカウントが消えた。最初はアカウント名を変えたとか、そんなんかと思ってたんだけど、探しても探しても「eil」はヒットしない。必死で調べたけど、データも何一つ残っていない。そこで、俺は「eil」がわざと跡形もなく消したって気付いた。別に珍しくなんかない。ネットの世界ではよくある。「eil」には俺以外にもネット友達が大勢いたから、大方その内の誰かと揉めでもしたんだろう。でも、でもさ、俺に何も言わないってのは酷くない?俺らかなり仲良かったじゃん。しかも、俺の誕生日にAkypeの電話で祝ってくれるって言ってたじゃん。初電話が誕プレとか言って草生やしてたじゃん。(もちろんAkypeのIDも消えてた。)一言文句言ってやろうかって、俺の最高技術で解析しようとしたけど、いざやろうと思ったら、虚しくなって止めた。しょうがない、こうゆうもんなんだネットって。意味分かんねえ。頭で分かってたつもりなんだけどな。はは、笑える。

そして遂にやってきた俺の誕生日。日付が変わった同時に俺の携帯のメールランプが光るのを、パソコンをする手を止めてしばらく眺めた。法的に酒が飲めるようになっただけで、全然嬉しくねえ。ちょっと期待してメール一覧を見たけど、アドレスは見知ったものばかりだった。そもそも「eil」に携帯のアドレス教えてねーし。いやでも、あいつなら知ってそうだ。直接見た事ないけど、あいつの持っている技術は相当なもんだと思う。はあ、なんか飲み物でも買ってこよう。そうだ酒にしよう。俺はデスクトップの明かりを消し、席を立った。すると机に背を向けた途端音楽が後ろから鳴り出した。しかもあの有名なハッピーバースデーの曲。慌てて振り向くと、画面一杯に鹿の被り物を被った人がハッピーバースデーと書かれたメッセージカードを持って立っていた。俺は一目見て分かった。「eil」だ。

「ハッピーバースデー!ひぐちくん!」
「いやいやいやお前、勝手に人のパソコン何してんのさ」
「んーちょっとハッキング?てか駄目だよ、情報犯罪科の人がハッキングされるなんて」
「ハッキングって…軽く」

もうどうでも良かった。何で俺の個人情報知ってるかとかどうして変声機使って喋ってんのかとか全部全部。これからもまたこうやって話せるってだけで良かった。

「んで、どうして突然いなくなったんだよ」

しばらく話して落ち着いたので、本題を話す。目の前の鹿は首を捻り低く唸った。

「あーえーと…あ、そうだそうだひぐちくん、君に見せたいものがあるんだ」

…はぐらかされた。まあいいや。またそのうち聞こう。「eil」が画面な右端に消え、ガサガサ音のみが聞こえる。何だろう。俺はにやける顔を押さえながら待つ。しかしなかなか帰ってこない。俺は暇を持て余し、部屋の様子だけが映し出された画面をぼうっと眺めた。こざっぱりとしている部屋だ。でもちまちました小物達の雰囲気が女っぽい。彼女と同棲でもしてんのかな。

俺が色んな考えを巡らせる事約5分。俺の沈黙を破ったのは、「eil」じゃなかった。

ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン…

玄関のチャイムだった。しかも一回だけでなく、何回もしつこく。こんな真夜中に誰だよもしかして「eil」とか?わくわくしながら覗き穴を覗くと、…見知らぬ女が笑顔で手を振って立っていた。え?誰酔っ払い?ていうかこの人見た事ある。そうだ、下に住んでる女学生だ。

「ひぐちくーん!いぇーい!」

いぇーいじゃない。何この人。ひょっとして頭が弱い人?

「ひぐちくーん?ひ、ぐ、ちくん!あけてー!」

俺が開けないのに痺れを切らしたのか、どんどんと扉を叩き出す。怖い怖い怖いまじでやばい人だ。

「帰ってください」
「なんで?せっかく来たのに。ほらほらワインもあるよー飲もうよー20歳の記念に」
「帰らないと警察呼ぶから」
「あははーひぐちくん警察なのに?」

なんでこんなに親しげなんだ?しかも俺が誕生日とか警察とか知ってるんだ?まさか、「eil」の送り込んだ刺客?きっとそうだ、そうに違いない。本当に何がしたいんだ「eil」は。

「あっれーひょっとして分かってない?」
「もしかしてeilの」
「ほら分かってんなら開けてよ!そうさ俺がeilさ!」

ほらやっぱり。って、

「え?eil?」
「え?あれとっくに知ってるかと思ったんだけど?」

恐る恐る扉を開けて、真っ正面から女学生を見る。よくよく見ると、着ている服がeilと一緒だった。

「初めましてー下の階に住むK大工学部2年のeilです。ぴっちぴちの乙女でしょ?」
「…今まで騙してたわけ?」
「騙してるつもりはなかったんだけど。てか、私一回も君に男とか言った事ないよ?」
「だって俺って使ってたじゃん、言葉づかいも…」
「それがネットの駄目な所だよね〜成り済まし出来ちゃうから」

あはは、とeilは可笑しそうに笑った。いや、可笑しくないって。現に俺顔引きつってるし。

「名前のeil、lie、らい、嘘ってヒントだったんだけど、気付かなかったとは残念だよひぐちくん」
「嘘っていう意味には気付いてるに決まってんじゃん」
「あ、そうなの?つまんね」

寒いから早く部屋上がらせてよ、eilは俺の隙間から部屋を覗きながら言った。その声が、女独特の湿っぽさを含んでいてどきりとする。そうこうしていると、eilはするりと俺の部屋に入り込んだ。

「何勝手に入ってんの」
「だから寒いんだってば!お、パソコン発見!」
「勝手に触んなって。大事なデータいっぱい入ってんだから」
「ハッキングされた時点でいうべき言葉だと思うよ」

かたかたとキーボードを叩きながら、彼女は苦笑いした。何をしているのかと、覗いてみると、LitterのID検索を開いていた。

「私のIDが存在しないだって!ちゃんと存在してるのに!」
「消したんじゃなかったっけ」
「チッチッチ。私のIDにアンダーバーをつけると…ほら!発見!試さなかったの?」

誇らしげに俺に画面を見せた。普通分かんないでしょそんなの。

「ひぐちくんの友人リストに登録しとくねー。さ、今夜は飲もうか!」

どかっと俺のベッドに座りこみ、eilは嬉しそうにワインの瓶を持ち上げた。俺はしぶしぶ、グラスとコルク抜きをとりに台所に行く。ついでに、適当にお菓子も。

「おー気が利くね!じゃかりん好きなんだよ〜」
「前聞いた」
「そうかそうか。よし、はいグラス持って!乾杯!ハッピーバースデー!ひぐちくん!」

完全に今夜は流されまくりだけど、いいや。eilの実物にも会えた事だし。忘れられない誕生日になりそうだ。そして俺は初めてのワインを口に含み、…それから一切の記憶がない。


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20110928
素敵企画サイト「ひぐ誕」提出
ハッピーバースデー匪口さん!
これからもずっとずっと大好きです!
Every thing love and thanks
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