「お前の母ちゃんってあいじんだったんだろ?」

男子達が本を真剣に読んでいる侘助の席の前に立って言った。勉強もスポーツも出来て、顔もまあまあいい非の打ち所がない同級生の弱味を握れて凄く嬉しいです、ってのが顔のにやつきでよく分かる、ああなんて低レベル。私は遠く離れたところから冷めた目でくだらない彼らを見た。

侘助にとってそんなのは弱味の中には入らない。宇宙圏内なんだ。侘助は、自分が今の家族から望まれていなくて、疎まれているのをよく知っている。学校でしか会わない奴等は所詮赤の他人だからどうでもいい。だけど、侘助は家庭内でも皆が赤の他人。それがどんなことか分からない限りいくら侘助をからかっても彼は、目もくれないだろう。本当に馬鹿だ、こいつら。

そして、それをバネに侘助は頑張っている。いつか私に呟いた言葉を思い出す。

「愛情をもらえてない子供はいいようになれません、ですから、お母さま方はきちんと愛を与えてあげましょうだってよ。俺は、絶対信じない。愛なんかなくても、親がいなくても、俺はいいようになってやる。頭超良くなって見返してやる」

そう強く放った侘助の瞳は、今にも泣き出しそうだった。私は、それを見て可哀想だなんてこれっぽっちも思わなかった。だって、全然可哀想じゃなかったから。侘助は気付いてない。侘助を思う人がちゃんといるってこと。侘助のおばあちゃん、と私。

同情なんかじゃない。
逆境中でも頑張って生きようとする彼の強さに惚れたんだ。一生懸命居場所を探そうとする姿が、輝いて見えた。
だからこそ、私は彼に思いを伝えてはいけない。他人に甘えるということを捨てた彼になんて言えるわけがない。言ったら、全てが崩れてしまうだろう。

だけど、男子達の次の言葉が私には許せなくて、

「真面目に勉強してたら気に入られるとか思ってんだろ?無理だよ、ばーか」

気が付いたらその男子を殴っていた。

「侘助はね、そんなことこれっぽっちも思ってないのよ!そんな、気に入られること自体諦めて、ただっわ、わびすっけはっ」

涙が自然に沢山零れて後は何も言えなかった。今度言ったら呪ってやるって言いたかったのに。悔しすぎる。


* * *


帰り道、半泣き状態の私に、侘助は遠回りになるというのに着いてきてくれた。

殴った右手はひどく痛むし、初めての暴力に恐怖心を覚えたし、侘助に迷惑かけちやったし、もう色々いっぱいいっぱいな私に侘助は黙ってずっと手を握っていてくれた。

家に着き、じゃあと去っていく侘助に何か言おうと思ったら、侘助が振り返り、先に口を開いた。

「今日、嬉しかった。**があんなこと言うなんてびっくりしたけど。…でも本当ありがと」

そう言うと、侘助は来た道をダッシュで走っていってしまった。取り残された私はさっきのありがとうとそれと同時にしてくれた笑顔に心拍数が一気に上がるのを感じた。


君の笑顔がひどくいって分かってよ

(そしたら、私も楽になれるのに)
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