会社の帰り道、ヤンキーに絡まれた。高校時代は周りにヤンキーが多かったので、恐怖感も感じず、あーどうしようかなあ、なんて適当に相槌を打ちながらのん気に考えていた。だが、だんだん雲行きが怪しくなってきてしまった。

「つーことでさ、お姉さん今晩俺と一緒に過ごさない?」
「え、いやちょっと。私今日はちょっと用が…」
「さっき何にもないって言ってたじゃん。遠慮しなくていいからさ〜」

さりげなく腰に手を回され、体中に寒気が走る。思わず仰け反ろうとしたけど、手はがっちり腰を掴んで放さない。これはやばいぞ、やばい。

「おい、てめぇ。そいつから5秒以内で離れろ。じゃねェとぶっ殺す。いーちぃ、にーぃ、さーん」

殺気を含んだ声が、真後ろで聞こえた。私はさっきも言ったように体をがっちりホールドされているので、直接は確認できないが、この声は絶対あいつだ。ヤンキーも止せばいいのに、かなり挑発的な声を出しながらと振り向いてしまった。そして、飛んだ。勿論、あのヤンキーだ。私は穴が開いた2m先の壁に合掌した後、やっとこさ振り向いて彼に笑顔を向ける。

「久しぶり、静雄」

バーテン服を着ていたり、サングラスをかけていたり、多少変わってしまったがあのこめかみに浮かぶ尋常ではない青筋と彼が放つ特殊なオーラーはやはり高校の同級生、平和島静雄だった。






お礼にと近くの行きつけの店に誘うと、静雄はあっさりと頷いてくれて少し嬉しくなった。高校生の頃、静雄や臨也のせいでよくヤンキーに絡まれていたのを静雄がいつも助けてくれていた。私はその度にお礼をしようとしたのだが、静雄は「元々は俺のせいだ」とかなんとか言ってことごとく断られていた。ああでも一回だけ、お礼ができたような気がする。何をしたかは覚えていないけれど。

「ここね、美味しいチーズケーキがあるの。本当すっごい美味しいから食べてみて!」
「…知ってる」

カウンターに座りメニューを見せようとすると、静雄がぶっきらぼうに答えた。あら、まさかの常連さん?と聞くと、どうやら一回だけ来た事があるらしい。なら話は早い。私はすぐさまチーズケーキを注文した。

「あ、ごめん。なんか飲みたいのある?お酒類豊富だよー。ちなみにオススメはオレンジのカクテル!」
「じゃあそれでいい」
「分かった。マスター、あといつもの奴お願い」

マスターが笑いながら頷いたのを確認し、私はずっと思っていた事を静雄にぶつけた。

「…なんか久しぶりだからかも知れないけど、静雄変じゃない?今日妙に静かだよね」
「んな事ねェ」
「いやいやーなんかきょどきょどしてるし。もしかしてチーズケーキ嫌いだった?」
「いや。てかお前こそ、いや何でもない。忘れろ」

逆に気になるじゃん、と抗議の声を上げようとした所で、チーズケーキとカクテルがきた。

「ありがとうございます、マスター」
「いえ、今日は彼氏連れですか」
「違いますよ、高校の同級生ですよ。たまたま会ったんです」

私が初老のマスターと話している横で、静雄がさらにおかしくなった。顔を壁側の方に向け、明らかにこっちをむこうとしないのだ。

「…静雄、マスターに失礼だよ。こんな人の良さそうなおじいさんでも、礼儀には凄く厳しいんだからね?」
「あ、ああ」

静雄はしぶしぶといった様子でやっとマスターの方を向いた。

「おや、あなたは」
「どうも、久しぶり、です」

少し吃驚した顔をするマスターと気まずそうにぺこりとお辞儀をする静雄。しばらくすると、マスターは納得したように数回頷いた後、満面の笑みを見せて、「どうぞ、ごゆっくり」と去ってしまった。

「え、何…知り合い?」
「…本当何にも覚えてないんだな」
「は、何が?」
「高校の頃、俺とここにきた事だ」

おんなじように、チーズケーキとオレンジのカクテル頼んだだろ、と付け足される。私は食べようとしていた手を一端止めて考える。全く思い当たる節がない。

「私が?ていうか私未成年でお酒飲むタイプじゃなかったよ」
「まぁお前はカクテルのせいでぶっ倒れて記憶にないんだろ」

静雄はぼそぼそと話し始めた。内容は大体こうだ。高校2年の時、私はあるヤンキーグループに拉致られた。勿論静雄関係だ。助けたはいいものの、長時間拘束されていた私は精神がそうとうまいっていたらしく、お酒が飲みたい、静雄にお礼したいなんて駄々をこね出した。お互い私服だった事もあり、近くのお店に入り、私は初めてのお酒でノックアウト。そして近くのお店というのがここだ。馬鹿だ、馬鹿すぎる自分。お礼した事があるというのは、これか。そういえば、初めてこのお店に来た時、マスターにやけに親しげに話し掛けられて、あの後は大丈夫だのなんだの言われた。人違いをしているのだろうと思っていたけど…ん?あの後?

「ねえ、私倒れた後どうなった?」

質問した途端、静雄は言葉を濁してちゃんと言おうとしない。

「…ねえ、聞いて、」
「今日夜暇なんだろ?そん時に教えてやっから」

え、静雄さん、それって、

私が再び問おうとすると、いいから早く片付けて出るぞ、と言われてしまった。

どうやらあの日の物語も、今日の物語もまだまだ完結しないらしい。お酒を飲んでいないのに、私は何かの熱に犯されているのを感じた。



ユズルさんに捧ぐ
物凄く遅くなってしまい誠に申し訳ありません。
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