「お前って彼氏とかいんの?」

私が忙しい上司の為に作ったおにぎりを左手で頬張り、右手でパソコンをつつくという大変よろしくない行為をしながら、更に聞いてはいけない事を私の上司、陣内侘助は聞いた。

おにぎりを返してもらおうか、と無言で残りが乗った皿をとろうとしたら、思いっきり腹に頭突きをされた。

「ぐぇッ」

大変乙女らしくない声を発してしまった、いや実際三十路間近なので乙女時代はとっくに終わりましたけどね。

「何とろうとしてんだよ、つか二十代のくせに色気ねえ声だな」

二十代、ちょっとその言葉に少し怒りが収まりそうにな

「あ、今年でお前三十路だったな、悪い」

前言撤回、
しかも悪いとか絶対思ってないだろ、口元が笑ってんだよコノヤロー

いやいや、ここは大人の余裕、余裕、三十路の余裕。なんか言ってて悲しくなってきた。つかこの人私より歳上だった。あまりにも行動が子ども過ぎて忘れてたぜ。

一呼吸を置いて、私は冷静沈着に言葉を紡ぎ出す。
「元々私が作ったおにぎりです、私がどうしようと勝手でしょう。あと先生子どもですか?精神年齢絶対私より低いですよね。今年で四十のおっさんが頭突きとか、マジでありぐぇッッ」

死ね、の呟きと同時にまた頭突きをされた。しかもさっきよりも強いもんだから半分涙目になった。


「お前はおばさん通り越してばばあだろ、もう痴呆症かよ。助手次はおっぱいでかいピチピチの可愛い女の子って希望出しとこ」
「ち、痴呆!、ななな何を根拠に!?」

おばさん通り越された挙げ句、ばばあ+痴呆症まで!さすがにそれは酷すぎる。精神年齢の余裕を放り捨て、陣内侘助の肩を激しく揺ぶった。

「何でそんなにテンパってんだよ」
「テンパりますよ!私の何処の要素がばばあなんですか、痴呆なんですか!?直しますから是非教えて下さい、神様!!!!」

「ヤだ」

離せと言わんばかりに私の脇に肘打ちを連発で喰らわす天パや、間違えた神様。

「教えて下さい!そしたら何でもしますからぁ」

もう半泣きである。不細工と笑われたが、今はどうでもいい。それぐらい女は年より見た目が老けていると言われるのが嫌なものなのだ。(特に二十代後半からねっ)

「ホントに何でもするか?」
「はい!」
「内容がどんなのでも?」
「今すぐ死ねと言われたら死ねますよ!!」
「いや、そしたら教えても意味ねえだろ。まあいいや、ココにサインしろ」
「はい、しました!!どうぞ!!!!」

「…よし、付き合え」
「はい、お酒のお酌ですね、ガッテンです!」

ビシッとすっごく綺麗に敬礼をしたら盛大にため息をつかれた。

「違えよ」
「何がですか?」
「あーもういいや。分かれよこの鈍感女。そーゆー意味を取り間違えるとことかばばあなんだよ」
「は?」

どういう意味ですか、と私が開きかけた口を柔らかい何かが塞いだ。それを何か理解する前に、一瞬で胸元に引き寄せられ、耳元で囁かれる。

「こーゆー意味だよばーか」

そしてまた直ぐ様離れ、彼はさっき私がサインした紙を私の眼前に散らつかせにやりと笑った。

「拒否権ねーぞ」

トイレ行ってくると立ち上がり際に私の頭をひと撫でした彼の顔がほのかに赤かったのは、内緒にしてた方がいいのかしら、と彼より真っ赤であろう自分の顔に手を当てながら考えた。



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