幼馴染の黄瀬にはとっても可愛い彼女がいる。加えてとっても優しい。そして私の自慢の親友でもある。彼女に黄瀬の事が好きだと打ち明けられてから、ずっと応援してきて、徐々に距離が近づいていく2人を見ているだけで幸せだった。遊び人の黄瀬に彼女が泣かされないか今でも心配。高校卒業したら別れるだろうなあ、なんて酷い事をこっそり思っていたりいなかったり。
「あ、黄瀬!おはよう。久しぶりだね」
「相変わらず元気っスね」
「なんたってバレンタイデーですもの!!見よ!この量を」
「うわあ〜こういうの見るとほんと女子って凄いと思うっスわ」
両手いっぱいの紙袋を掲げて、えへんと胸を張ると、黄瀬は苦笑いをひとつ零しやがった。ので足蹴りをお見舞いしてやる。
「痛!で、俺にはくれんの?」
「アンタは可愛い可愛い彼女さんにもらえるでしょ。だからありません」
「いや、今年はくれないって」
「はあ!?」
なんで。紙袋に伸ばしかけた手を止め、黄瀬の顔を見る。どうして残念そうじゃないの。ねえ。
「そんなハズないでしょ」
「……今週末試合あるんスよ」
「あ、そういやそうだね」
「食中毒になったら困るって」
ちょっと照れつつ自慢気な黄瀬の横顔。
「愛だね〜〜〜さすが!!もう愛されまくりじゃないですか!」
ああ、このカップルは長続きする。そう直感した。なんだか、何も考えずにほいほいあげようとしていた私が恥ずかしい。やっぱりあの子には敵わない。義理チョコと見せかけて普通の男子より豪華なチョコをあげようとしていた私はなんて、なんて自分よがりなんだろう。
「腹立つから私の義理チョコを食って腹壊してしまえばいい!」
「ひど!でもあざーす!」
他のより丁寧にラッピングされてるのも、中身が違うのも黄瀬は一生気付かない。私が黄瀬を追いかけてここに来たのだって一生気付かない。だって黄瀬は中2の頃から彼女しか見えてない。ずっと見てきたから分かるんだ。
「そういや去年、黒子っちとバレンタインの時にたまたま会って」
「たまたまって……。アンタの場合計画犯でしょ」
「チョコ今年もたくさんもらった〜って言って見せたら一蹴されたんスけど」
「誰だってするわ」
「……俺のだけもしかしていっつも豪華にしてくれてたりする?」
黒子っちの馬鹿野郎!私は心の中で叫ぶ。そして見せに行った黄瀬なんか馬に蹴られて死んじまえ!
「お、幼馴染としてね」
「分かってるって。ありがたく頂きます」
嬉しそうに笑うな!へらへらすんな!そんな顔は彼女の前だけにしてろ。じゃないと、しぼんでいた恋心がまた膨らんでしまう。
「あ」
黄瀬がさらにへにゃりと笑って奥の靴箱を見た。見ると麗しの乙女が。私は安心して、彼女に手を振る。彼女は嬉しそうに駆け寄って私たちに笑いかける。黄瀬は私から貰ったんだと彼女に見せつける。私は黄瀬にあげたのより数倍も大きい友チョコを彼女に手渡す。彼女は同じく紙袋から私と同じくらいの友チョコを取り出して私にくれる。黄瀬が嘆き、私たちは笑う。
そんないつもの日常。それでいい。これからも黄瀬と彼女を見守るちょっと毒舌な友達で居続けたい。いつか私にも素敵な恋が訪れる事を祈りながら、そう思う。
舌の上で溶けるのは