「あ、まり、ちょっと待って」

 服はとっくの昔に脱がされていて、甘利も上半身は裸だった。電気を消して欲しい、とか、ちょっと部屋が寒いだとか、いろいろ言いたい事はあるけれど、初めにきちんと言っておかなければいけない事がある。

 甘利は、「なあに?」と甘い声を出しながら、私の額や頬にキスを何度も落とした。こういう声の時、大抵彼は人の話を聞く気がない。彼の頬を軽く平手で叩くと、「痛い!」と声を上げて私をやっと見た。

「あの、ですね。言わなくてもいいのかもしれないけど、私、あー」
「はは、そうもったいぶられると気になるじゃない。実は初めてとか?まあ、それはないか、**、前彼氏いたもんね」

 図星だった私は視線を逸らして、口を一文字に結んだ。私の様子に、甘利は瞬きを大袈裟に何回もして、そして笑った。

「嘘だろ」
「手前までは言ったけど、ヤッてない」
「高校の時は?同級生の堀君とかいう……」
「ねえなんでそんなに覚えてんの?その話したの1回しかないのに」
「お前の事なら覚えてるよ、なんだって。ああ、そっかあ、初めてかあ。じゃあ俺も初めてだ」

 甘利は私の顔の横に肘をついて、表情を緩めた。いつもふわふわしている彼だけれど、今日はより一層柔らかい気がした。こちらは口とは裏腹に内心緊張しまくりだ。

「え?さすがにその嘘は通用しなくない?」
「初めての女の子とするのは、初めてだよ」
「そういうのは今からする人の前で言わない方がいいと思う」
「そりゃそうだね」

 「でも、**の前ではなんでも喋りたくなっちゃうんだ」そう言って甘利は私の唇を食んだ。恋人にするようなものではなくて、小さい子がまるで親の愛を求めるような、そういったものに近かった。

「逆に、**は俺でいいの?初めてが」
「それは何度も自問自答したけど、もう、いいや。したいという理由もないけど、したくないと理由もたいして見つからなかった。あと」
「うん?」

甘利が私の髪を梳きながら、瞳を覗き込んでくる。私の言葉を一字一句聞き漏らしたくないという雰囲気があった。

「たぶん、私も甘利の事が、好きだと思う、から」

 梳いている手がぴたりと止まり、甘利の双眼が大きく開かれる。その後で、彼の頬がうっすらと桃色に染まった。私も正直吃驚する。だって、彼はこんな言葉聞き慣れているはずだ。だからこそ、こちらもあまり恥ずかしい素振りを見せずに言ったのに。そんな態度をされると、恥ずかしくなってきてしまう。

「恥ずかしがらないでよ、えっていうか本当にあか」
「見ないで、頼むから」

 甘利の大きな手が私の目を覆い隠す。ふー、と大きく息を吐く音がして、手が除かれる時には、彼はもう普段の彼に近かった。気を取り直したように、彼の手が、私の胸に伸びる。身体を強張らせると、彼はくすりと笑った。

「大丈夫だって、そんな痛くはしない」
「すごい自信」
「可愛くないなあ、俺が慈しみをもって言ってるのに」

 そうやって余裕ありげに笑っていたくせに、いざ挿れるという時、既に額に汗をうっすらと滲ませた甘利が「やっぱり無理かも」と言い放ち、そこから私が痛いと言おうがやめてと言おうがお構いなしの事をされた。ゴムすらつけようとしないので、それは大きな声で批判した。噂で、彼とのセックスは、甘くて優しいと聞いていたのに、大違いだ。終わった後に「もう絶対しない」と怒ると、彼は頬をすり寄せながら「次は優しくするよ」と言ったので、その言葉を信じていたのに、次もその次も、お世辞にも優しいとはいえないものだった。


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