それから私は彼のラインとツイッターをブロックして、会っても完全無視で通した。サークルの集まりがあったけれど、彼の名前があったので行かなかった。あんな男となんで友達でいたんだろう。いつものタイプの子が飽きたからといって友達の私にまで手を出してこようとするなんて下劣の極みだ。それに私の事を好きと言ったくせに、相変わらず女の子とつるんでいるし。

 消化しきれない怒りを携えて生きる事の辛さといったら。波多野が「早く仲直りしろよ」と憔悴し切った顔で言ってきたので、甘利が何か言ったのかもしれない。だけど、知るもんか。私は怒っている、そうとても怒っているのだ。

 そんな深夜、波多野から電話がかかってきた。その日、17時までのレポートを完徹でギリギリまで書き、それをメールで送った後爆睡していた私は、1回目の着信を無視した。2回目の着信も無視した。そうしてようやく3回目で出ると、波多野がげっそりした声で「甘利の家に来い」と言った。勿論「嫌だ」と断ったが、波多野が「これは俺の問題じゃねえ、お前と甘利の問題だ!」とキレた口調で言ってきたので、怖くて「はい」と頷くしかなかった。電車がないとかなんとか言えれば良かったのに、彼と私の家の距離は2kmも離れていなかった。悲しい。

 着の身着のまま寒い中自転車を漕ぎ、甘利のアパートに着いて、言われた番号をエントラスで押すと自動ドアがすぐ開いた。そのまま部屋まで行く。ドアのインターホンを押す前に眉間に皺を寄せた波多野がドアを開けてくれた。さ、酒臭い。

「俺は帰るからな!」
「波多野、俺を置いていっちゃうの」
「しらん!大体お前が変な事ばっか言うからだろ!じゃあな!」

 私に何も言わず肩を怒らせて帰って行く波多野を無言で見送り、部屋の中にいる甘利を見る。え?なんか泣いてない?大丈夫?なにがあったんだ?

「寒いしとりあえず入らせてもらうよ」

 甘利の家に来るのは初めてだ。想像していた部屋より雑然としていて、いかにも男が住んでいるような部屋だった。

 テーブルにはお酒の缶がいくつも転がっていて、既に大分飲んでいる事を知る。甘利は鼻を啜って目の前に正座をしていた。

「**、この間はごめん」
「この間ってどれ?階段のやつ?ラーメン屋のやつ?」
「どっちも」
「まあ、うん、私もさすがにブロックや無視はやり過ぎよね、あの、ごめんね。甘利があの子に振られてこんなに傷心してるのとは思わなかったからさ」
「あの子の事はどうでもいいんだ」
「えっそんな事言っちゃう?」
「その、自分から好意を伝えた事今まで殆どなくて、お前を色々吃驚させたかと思うけど、本気なんだよ」

 つまり、まだ私と付き合いたいだのそういう事を言うのか、と呆れた目を向けると、甘利が捨てられたような子犬の目で私をじっと見てくるので、どきりとした。なんで、そんな目をするのだ、ズルイじゃないか。

「本当の本当に?」
「本当の本当に。お前が嫌なら女の子と遊ぶのもやめるよ。ええと、なんだっけな。"**の事が好きです、付き合ってください。" 」

 頭を下げられて唖然とする。ねえそれ、波多野のあたりの言葉そのまま言ってない?けれども、顔を上げた甘利の頬がお酒のせいではない赤さで染まっていて、私は、

「よし分かった!付き合おう!なんかもうわけわかんなくなってきたし、めんど、いや、なんでもなくて、うん、付き合おう」
「えっ、お前軽くない?あんなに嫌がってたのに」
「甘利面倒臭い」

 そうか、でも良かったと甘利が目にちょっとばかしの涙をためながらくしゃりと嬉しそうに笑うから、どうやら本当なのかもしれないと思う事にしてみた。その後されたキスは、大変アルコール臭かった。

(完)

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