薄緋

「おー食う食う。一人で飯とか寂しすぎてどうしようかと思ってたから助かったよ」


「そうと決まったら早よ行こか」


ケータイをソファーの上に放り投げカードキーを手に持つと、早くと急かすミッキーに遅れまいとかかとを潰して靴を突っ掛ける。
オートロック式のこのドアは扉が閉まれば勝手に施錠されるようになっているけど、オートロックなんて機能に慣れ親しんでいない俺としては鍵のかかる音を聞いて漸く安心出来る。

爪先でトントンと地面を叩き靴を履きながら、ガチャリと重たい金属のぶつかる音を聞いてミッキーの後を小走りで追う。

身長の差も勿論そうだけれど、コンパスの差が大きいのか、少しドアの前でタイムロスをした俺は悔しいことに小走りをしないと追い付けそうにない。
この長い廊下を歩くだけでも疲れるというのに小走りしないといけないなんて、やっぱり足の長い奴は得をしてると思うんだ。
そんな事を考えながら目の前を歩く背中を追いかけた。



エレベーターの前に来てようやく振り返った彼は、やっと追い付いた俺を見て少し驚いたような表情を浮かべた後に、先ほどまで談笑していた時と然程変わらぬ人好きのする笑みに変えた。


「さ、行こうか」

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