薄紅色

「えーと・・・・・・6014号室の佐伯っちゅーモンやけど・・・
 とりあえず解放してくれたら嬉しいかなー・・・」

佐伯と名乗った相手の言葉にはっと今の状況を思い出す。
そういえばここは日本で、今は安岐学の学生寮に居るという事をすっかり忘れていた。いくら一日前までアメリカに居たからとはいえ、この学校に来て半日も経たずして寝ぼけてましたとか時差ぼけしてましたなんて言葉じゃ誤魔化し切れない失態をしてしまった気がする。



「ごめんごめん、海外に居た頃の癖が戻んなくて」




あはは、と誤魔化すようにから笑いをしてみたけれど佐伯と名乗った彼の瞳は相変わらず困惑したままでどうしようかとこちらも動揺してしまう。



「改めまして各務琥珀君、俺はお隣の6014号室の2年A組、佐伯光希って言います。‥なんてかたっくるしい挨拶苦手やから素に戻ってもええかな?」



「どうぞどうぞ。というか初対面の人にいきなり抱き付いたりしてごめんな?びっくりしたよな」



「この学校じゃそない珍しい事でもあれへんし、ちょっとびっくりしただけやで!気にしなや」




ニッと笑う彼に安堵しながら何かが引っ掛かっている。なんかもっと重要な‥‥。



「そういえば何で佐伯さんがこの部屋に居るんだ?鍵開いてた?」


「俺総寮監やからいざという時のためにマスターキーを使用できるんや。それで今日来たばっかの編入生がどないなもんか見に行ったろ思てな。あ、一応チャイムは押したんやで?」



「あー‥俺一度寝たらチャイムごときじゃ起きないからなぁ」



「ちゅー事で案内がてら親睦深めに来たって訳。俺の事はミッキーって呼んでくれてかめへんよ」



「OK、よろしくなミッキー‥‥ぶふぉっ」



俺の脳内で佐伯が、某夢の国のキャラクター音声で"僕ミッキー"なんて自己紹介をするもんだから、差し出された手に自分のを絡めて相手の目を見た瞬間に我慢しきれず盛大に吹き出してしまった。
下手に我慢しようとしたもんだから変な声出ちまった。俺多分とてつもなく恥ずかしい子だわ。



「何やねんな、自分一人で賑やかなやっちゃな」


「ごめん、脳内のミッキーがミッキーで‥」


「意味わからんし、とりあえずご飯まだなら食堂にでも行こか」



その言葉に壁に掛けてある時計を見るともう7時を少し過ぎていた。少し寝るつもりがいつも寝過ぎてしまうのはいつもの事だ。
こんなにゆっくり寝れたのもケータイを切っていたお陰かもしれないともう一度電源を立ち上げると瞬時にメール受信を始めたので、見るべきじゃなかったともう一度電源ボタンを長押しした。

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