敬語
「どこから話せば良いんでしょうか。」
「まずは先輩との接点からどうぞ」
広い空間の中心に据えられているソファーに対面して座る。腕を組んで仰け反り気味に座る梼から発される黒いオーラはまるで抑制される事を知らないとでもいうように垂れ流されている。そんなもんだからついつい敬語になるのも仕方がない。東雲先輩が怖がられているというけれど、俺には怒った梼の方がよっぽど怖い。
下駄箱での弁当事件、二人に誘われて階段で相談した話、さっき部屋に言って話をした事――キスされた事までうっかり口を滑らせて話してしまったけれど、どうやらそれが火に油を注いだようで適当に打っていた相槌を止めて「今何て言った?」と掘り下げられる羽目になってしまった。
「で、何でキスされる流れになったのさ」
「俺にも全く分からないです」
「あのねぇ、東雲先輩って強面だし不良だから表立って親衛隊が動かないだけで、その分一番陰湿なんだよ!?」
わざとらしくため息を吐いていっきに捲し立てる。これだけ機関銃のように喋ってよく舌が縺れないものだ。俺だったら噛みに噛んで説教どころか爆笑をされそうなもんだ。
「あぁ、でもパーティー出なくても良いとか言ってた」
「そりゃ特別科だからね。名前が括弧で閉じられてたでしょ?あれ、出欠未定って意味だし」
「特別科の生徒はパーティー参加とかしないの?」
「普通はね。だいたいレッスンや仕事が入ってたりするから。…で、琥珀は出ないんでしょ?」
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