般若

またあの細い獣道のような場所を通って学生寮に戻る。あまり手入れされていないのか周りには背の高い名前もよく分からない草が生い茂っていて互いに絡み合っている。この中を歩いたら小学生の頃よく投げて遊んだオナモミが大量に付く事必至だろう。






つい1時間程前まで人でごったがえしていたエントランスも掲示板付近に人が疎らに見えるだけで、火の消えたように静かだ。
騒ぎの元凶になったコルクの掲示板に貼られたプリントには大勢の名前が羅列してあり、ずっと見ていたら酔いそうだ。苦手な教科のプリントを見ていると眠くなる感覚とよく似ている。そういえば数学の課題が出てたけど持って帰ったっけなんて余計なことまで思い出してしまった。



自分の名前の横に一文字分のスペースと東雲先輩の名前が書いてある。他の生徒と違うのは二人の名前が括弧で閉じられている事くらいだろう。たった2つの半角記号がついているというだけであの体たらくだ。一体これに何の意味があるというのだろうか。





「こーはーくー。どういう事?」


まるで般若が無理矢理笑顔を作ったような形相をした梼がこちらに詰め寄ってくる。更には猫っぽいと揶揄される彼の背中に巨大な虎の幻影が見えるというおまけ付きだ。普通に怒鳴られるより怖い気さえする。



「どういう事って何が?」

「ペアだよペア!僕か、百歩譲っても佐伯かと思ったら何でよりによって東雲先輩なの!?」


「あー…まあ色々あって」


「じゃあその色々を一から順を追ってじーーーっくり説明してもらおうか」


最早笑顔を作ることすら忘れているのか虎を引っ提げた般若にひこずられるような形で連行される。俺だって決して軽い筈ではないのにどうして皆細身でこんなに力があるんだろうか。
僅かにエントランスに残っていた生徒の視線を総集しながらその場を後にした。

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