肉食獣

じりじりと詰められる距離に思わず逃げ腰になる。大きめのソファーとはいえ逃げられる限界は自分が手を伸ばせばあっさりと迎えてしまいそうだ。
東雲先輩が膝を乗せるとギシリとスプリングの軋む音がした。この間の佐伯といい、俺はなんでこうもソファーと相性が悪いんだろうか。ソファーで寝たり寄っ掛かったり跳ねたり、こんなにも好きなのに一方通行だったなんて。
―なんて悠長にソファーに馳せる思いを脳内で繰り広げている場合じゃなかった。顔の横につかれた手は更に俺から逃げ場を奪った。先程まで笑っていた表情は一変して獲物を捕らえた肉食獣のようなぎらついた瞳を携えている。比喩じゃなく食われると本気で思わせるようなその鋭い眼光に、体はソファーに縫い付けられたまま動けない。




「なーんて、俺は数少ないノンケでした。どうよ俺の演技」



ふんと得意気にする先輩には先程の肉食獣の影はひとつも見当たらない。その演技力はまさに天晴れとしか言いようがない。
―これで確信した。先輩はきっと芸能科だ。



「ま、これ芸能科の奴の受け売りだけど。ちなみに俺は体育科でした。」



―確信もたまには外れる事だってある。
しかし先輩がエスパーなのか、それとも自分が表情から感情を垂れ流し過ぎているのか、もしくはその両方なのかは分からないけれど、ここまで先回りした回答をされると少し不気味だ。

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