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静かになったはいいものの、誰一人一言も喋らないというのもどことなく気まずい。どうにかこの雰囲気から逃れようと先輩の制服の袖をちょいと引っ張って水を向ける。意図した通り先輩はこっちに視線を下ろしてああそういえば、と口を開いた。


「明日の事でちょっと話がある―ここじゃなんだから移動するぞ」

「あー、はい」


周りの人は東雲先輩の一挙手一投足に注目をしているようで、一緒にいる俺でさえ居心地が悪い。東雲先輩はレアキャラなんだろうか。DQシリーズでいうはぐれメタルなんか一匹狼っぽいとこがぴったりかも。色的にメタルというよりマグマっぽいけど。



東雲先輩が進むにつれ人だかりは十戒が如く道を開ける。腕を引かれてエントランスまで引っ張られたところで解放された。本人にそんなつもりはなかったんだろうけど何気に掴まれてた腕が痛い。見た目は細いのにどこからそんな力が出るのか是非とも教えて欲しい。
寮の脇をするりと抜けて校舎との間の細い道を進む。獣道かと紛うその先には所々グリーンの塗装が剥がれた門があり、インターホンの横にある溝に学生証をスライドさせると低い地鳴りのような音と共に門がゆっくりと開いた。







「とりあえず適当に座れば?」


先輩の部屋に通され促されるままソファーに腰を下ろした。なぜこんな隔離されたような場所にあるのかは分からないけど、部屋を見た感じ特殊な機械があるわけでもなく、広さも自分達が生活している寮とあまり変わりはないように思う。


「あー…何から説明していいかわかんねえけど、明日のパーティー参加しなくても良いぞ」


「…あまりに話をはしょりすぎじゃないでしょうか。」


「俺ら特別科は芸能科、声楽科、体育科に分かれてるけど、皆に共通して言えることは生活リズムがバラバラで仕事やレッスンが平日にもある。つまりペアがいなけりゃ参加は本人の意思次第だ」


「なるほど。」


だからこうやって普通科の学生寮とは別になっているのか。敷地が無駄に広いとは思ってたけど、そう考えるとこの広さは妥当なのかもしれない。
―先輩は何科なんだろう。体育科と見るのが妥当だろうけど、これだけ整った顔してれば芸能科にいてもおかしくない気もする。あえての大穴で声楽科…はないよな、流石に。



「お前今失礼なこと考えてたろ」


「うぐ…」


両頬を片手で潰されるような形で掴まれ顔を無理やり上げさせられる。一歩間違うとアイアンクローになり得るその眼前に被さった大きい手に嫌な汗をかく。―その際上げてしまった蛙が潰れたような間抜けな声は愛嬌ということで流して欲しい。


「しゅみましぇん」


「少しは否定しろよ。お前胆が据わってんだか単に何も考えてないんだかわかんねぇな」



何がおかしいんだか先輩は手の力を緩めると腹を抱えて笑い始めた。未だに頬に掛けられている手に再び力が込められるんじゃないかと肝を冷やしたけど、どうやら先輩は笑うのに忙しくてそれどころではないらしい。

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