「もー琥珀遅いっ!」


教室に帰って浴びた第一声は梼のこの一言だった。言葉は多少きついものの、心配したと言わんばかりに下げられた眉に嬉しさを隠しきれず思わず頬を緩めた。


「ごめん。次移動だろ?早く行こ」


教卓の上に乱雑に重ねられた紙の束の中に自分の物を埋め込んで教室を後にする。誘ってくれた梼やミッキーには悪いけど、なんとなく後ろめたい事をしたような気がして、敢えて何も言わずに提出することにした。
紙にペアになる人の名前を書いて、お互いの提出票に書いてある名前が一致して初めてペアと認められる。そうしないと親衛隊なんかが勝手にペア登録をしようとするから、これは不正を防ぐために行われているらしい。もし白紙で提出した場合は白紙の者同士でランダムに決定される。梼やミッキーはどうするんだろうと一瞬頭を過ったけれど、今更ながらそれよりも重大な事に気が付いた。―東雲先輩は俺の名前を知らないんじゃないだろうか。









「えー、この事件が起こったきっかけは、えーこの時代背景が深く関わっており、えー―」



社会の宮森先生は「えー」の回数が多い事で有名だ。クラスの暇人が数えたところ、一回の授業で最高53回言っていたとの記録がある。なんともアホくさいが、50分のうちに何度も何度も聞くとさすがに耳障りである。
配布されたプリントの端に名前を書きながらどうしようかと頭を悩ませるものの、名前と容姿くらいしか知らない俺はどうしようもない事に気が付いた。―用紙は白紙で出したことにしよう。そうすれば梼やミッキーには怪しまれずに済む。理由なんて"他のクラスの人と交流したかった"それだけで充分だ。あとは三日後のペア発表を待つのみ―

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