薄鼠

朝目を覚ました俺の目にどんよりと曇った空が飛び込んできた。まるで昨日の自分の夢を具現化したような空に苦笑いする他なかった。
もう少しと布団を抱き込んで二度寝したい衝動に駆られるけれど、昨日そのまま寝たことを思い出してシャワーを浴びて目を覚まそうと浴室へ向かう。
学生寮にしては綺麗な風呂は一人部屋の特権抜きにしても充分過ぎる程だ。
少しぬるめのお湯を頭から被っているうちにだんだんと思考がはっきりしてきた。憂鬱な気分は晴れないまま、今日の空のように今にも泣き出しそうだった。


「しっかりしねぇとなー」


「何をどうしっかりすんの?」


頭を拭きながらパンツ一丁の格好でバスルームから出たら独り言に対して返ってくる筈のない返事が来た。
自分の部屋よろしくソファーに座り足を組んで、一昨日買ってテーブルの上に置いておいた雑誌を当たり前のように読んでいる隣人の姿がそこにあった。




「いやいやいや何で居るの」

「ん?友達迎えに来たらあかん?」

さも当たり前のような返答に言葉を失った。いくら寮監だとは言っても勝手に部屋に上がり込むのはいかがなものだろう。
それに登校まであと二時間以上もある。普段の俺なら寝ているところだ。



「はよ服着てしまい?やないと襲わんとも限らんからな」



興味を失ったのか先程まで読んでいた雑誌を畳んでテーブルの上に戻すと、上半身裸の俺に視線が移る。まるで品定めでもするかのように上から下まで行ったり来たりを繰り返す。
ソファーの背にかけた制服を取りにミッキーに近付く。じろじろと見られているのもあまり心地の良いものではない。―少しだけ兄や家族の気持ちが分かったかもしれない。



「なんなら俺が着替えさしたろか?」



制服に伸ばした手は寸での所でミッキーに掴まれそのまま引っ張られる。半分前屈みだったせいもあっていとも簡単にミッキーの上に倒れ込んだ。

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