深緋

―相応しくない

―何でお前なんだ

―憎い



羨望の眼差しはいつしか憎悪へと変化し、剥き出しの悪意になって俺にぶつけられる。
言葉だけならまだマシだ。時には暴力を振るわれたり、ナイフを突きつけられて脅迫紛いの事をされた事もあった。
何でこの家族で俺だけ平凡なのかこっちが聞きたいくらいだったし、塵も積もれば山となるの言葉通り、こういう事件が重なって、何一つ悪くない家族を逆恨みしてしまっていた。





―お前は必要ないよ



そう発された言葉は俺の心に突き刺さった。
平凡だとか、近付くなとか、そんな事は言われなれていた。
―必要ない―きっと俺は心の底で、自分が居なければ揉め事も起こらず家族のみんなは平穏に暮らせるんじゃないかと思っていた。
それを人に面と向かって言われたのは初めてで、あぁやっぱり自分は必要ないのかもなぁなんてぼんやりと考えた。
向けられたナイフを交わすでもなく、それは俺の脇腹に突き刺さった。痛みというよりも傷口からどんどん熱くなってきて、これで全てが解決に導かれる。そう思って、俺は笑ってた。





目を覚ますと病院だった。カーテンをふわりと捲り上げて入ってきた風に乗せられた病院独特のアルコールの匂いが脇腹に感じる鈍痛を更に酷くした。
幸いにも刺されたのは果物ナイフで、刺傷も浅く済んだと担当の先生が様子見がてら説明してくれた。
刺した相手は殺人未遂で逮捕されたというのを看護師さんが噂しているのを聞いた。殺し損ねた上に逮捕されるだなんてついてないねなんて自虐的な事を思った。

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