ガーネット

そういえば今は授業中で、教師の殆どが出払っている筈だからこの場合は校医か、と1人納得して保健室のある校舎脇の別棟へ向かおうと、手に持ったままだった弁当の入った袋を置こうとした時、ガサガサと鳴る音にぴくりと微かに反応した。
バッと音がしそうなほど勢いよく動かされた血色の悪い手はいきなり俺の手首を掴んだ。その力と目力の強いことたるや、先ほどまで具合が悪かったとは到底思えない。




「……め」


「……め?」


「飯…」


「はぁ?」



相手の視線の先を辿ると、辿り着くのは弁当で、飯と言っていたしどうやらお腹が減っているらしい。顔色の悪さから言って抜いたのは1食2食どころの話じゃないだろう。


「いやいやいや、これ食べさしなんだけど…」

「…何でもいいから…」


どうせ教室に持って帰ったって食べる訳じゃないし、むしろ廃棄する手間が省けて、相手は腹が満たされる。ウィンウィンの関係ってやつ?



どうぞ、と遠慮がちに差し出すと、ひったくるように弁当を受け取って、ちゃんと咀嚼しているんだろうかと疑問を抱くようなスピードで掻き込んでいく。
気持ちいいくらいに弁当がどんどんと口の奥に吸い込まれていく。これだけ欲されて食べられたなら、俺に怠そうにもそもそ食われるよりも弁当的には本望だろう。



俺は食事の邪魔にならないようにそっと立ち退いた。
―決してこの紅い髪の先輩が美形だからこれ以上関わりを持ちたくないとかいう理由ではない。

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