ココアブラウン

それからしばらくして俺も大分落ち着き、特に暴れる事もなく極平凡な生徒として学業を全うした。…と言いたい所だけど、それからというもの"トラ"は賞金首のように扱われ、姿を現さなくなったので幻のような存在と化した、と誰かが噂しているのを小耳に挟んだ。
誰が探しているのか、なんて言わずもがなのことだが。




―――――――――――



およそ一年半ほど前の記憶を掘り返し終えた俺は、気まずさからまともに相手の顔を見れなくなってしまった。
優しそうな視線は当時の事など全く語ってはいないが、その裏ではきっと今でも恨んでいるんじゃないかと邪推してしまう。


「じゃ、俺行きますね」


隣から向けられる視線に居たたまれなくなってきたので、持ったままだったほぼ手付かずの弁当を袋に戻して、徐に立ち上がってその場を後にしようとした。


「待って」


ぐっと手首を捕まれたのが先か、チャイムが鳴ったのが先かは分からないが、授業開始を知らせる音を聞いて掴んだ手を緩められた隙にぱっと手を振りほどく。
それじゃあ、と小さく会釈をしてそそくさと逃げるようにその場を後にした。
去り際に合った薄茶の瞳は心なしか不安げに揺れていた気がした。

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