トープ
一瞬ぴたりと動きを止めた俺を見た相手は、チャンスと言わんばかりに俺の思惑通り、思い切り拳を振りかぶった。
先ほどまで俺が立っていた場所は、俺がパンチを避ける度に何度も踏まれ、泥濘がより一層酷くなっていた。そんな場所で思い切り振りかぶってバランスを保てる筈がないと、動揺に僅かに眉を歪めた相手を見てにやりと口角を上げた。
ぐらりと崩れた相手を狙って横っ面に拳を叩き込んだ。そのまま地面に投げ出された相手を見て、くるりと踵を返した。
族狩り、なんて言われてるけれど別に族を解散させる目的がある訳でもなく、ただ喧嘩を売られて、それを買っているだけの話だから喧嘩をした後はもう何の興味も残らない。
帰り際に寂れた商店街の柱に掛けてある時計を見ると、あと少しで家を出てから長針が二週するような時間になっていた。
明日の朝起きれるだろうかという心配をするあたり、自分が無理やり悪ぶってる気がして少し笑えてきた。
家につく頃周りは虫の声すら聞こえない程に静かで、少し不気味さを感じた。
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