琥珀色
どうぞ、と促して部屋へと入ってもらう。本当に何もない部屋で申し訳なささえ感じる。
そういえば紅茶を持ってきてたっけ、と台所のキャビネットを開けて数種類並んでいるのを確認してから台所に立つ。
「紅茶で良い?」
その辺に座ってて、と付け足して相手の返事を聞く前にケトルに水を注いで多目にお湯を沸かす。ものの数分でボコボコと沸騰する音とカチッという音が聞こえ、お湯が沸いた事を知らせてくれる。
ティーポットにお湯を注ぎ暖めている内に、並んでいる茶葉の中で一番のお気に入りの缶に手を伸ばす。紫色の"keemun"と書かれた筒上の缶に入った茶葉をティースプーン一杯分取り、お湯を捨てる。
そして茶葉を入れてまた新たにお湯を注ぐ。そして3分くらいしてから茶漉しを通してカップに注ぐ。蘭のような香りが鼻腔を擽る。
それをソーサーに乗せて溢さないよう最新の注意を払いながらローテーブルまで運ぶ。
陶器とガラスが小さくぶつかりカチャリと小気味よく音をたてる。溢さないというミッション1を無事クリアした事に安堵する。
ミッキーと対面するように座り、小さくいただきますと呟いてからカップに口につけて傾ける。紅茶が大好きで、これでも入れ方はかなりこだわっている方だと自負している。
面倒だけど、そうしないと紅茶独特の香りや風味が殺されてしまうのでポットを暖めたりとまどろっこしい作業さえもきちんとこなす。何に対してもそうだけど、愛というのは偉大だと物凄く実感する。
スモーキーなキーマンの香りを鼻から深く吸い込んで気持ちを落ち着かせる。
猫舌なのか、正面の彼もカップに手をかけて数度息を吹き掛けて冷めた事を確認してから一口含み嚥下した。
「‥‥めっちゃうま。」
「だろ!?ミッキーは良い味覚してるよ」
自分の苦労を誉められるとついつい嬉しくなる。それが自分の好きなことに対してなら尚更。
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