褐色

エレベーターは殊の他停まることなく俺たちを1階へ運んだ。
昼に見たエントランスは光が射してステンドグラスの模様が床に描き出されてキラキラとしていたけれど、ガラス張りの向こう側にはただ漆黒の闇が広がるばかりで無音だと少し怖いくらいだ。
丁度皆ご飯時だと食堂に向かっているのか、二三人ずつのグループが会話をしながら廊下を行き交う。
すれ違う生徒はこちらを向いては仲間内での内緒話に勤しむ。投げ掛けられる明らさまな好奇の目はあまり気分のいいものではない。



「編入生が珍しいんやろ。ほっとき」



むっと眉間に皺を寄せた俺を見てミッキーはその意図を汲んだのか、呆れた様子で長く息を吐き出した。



食堂に着いてから注文の仕方をレクチャーしてもらった俺は軽くカルチャーショックを受けた。だってここ学校だよ?何この高級レストランのような造りにウェイターさんまで。
真新しいクロスが敷いてあるテーブルに向かい合わせて座り先ほどの視線の原因なるものの説明を受けた。
この安岐学は幼等部、小等部、中等部、高等部とエスカレーターになっていて、外部へ編入する事も出来るようだけれど、大概がそのまま持ち上がるから皆が皆顔見知りで、ニューフェイスな俺が相当珍しいらしい。




「なるほど。」

「ま、人の噂も75日やって言うし、すっぱりと諦め」



幼等部から通う彼があっけらかんとそう言い放ってくれるのは他人事だからだろう。
そりゃこんな山の中にあって外出は特別な用事がないと殆ど許可が下りないから仕方ないといえば仕方ないのかもしれないけどさ。





あー今になって翡翠に突き付けた言葉が自分に返ってくるだなんて思いもしなかった。




‥ごめんなさい、正直言うと帰りたいです。

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