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因果を取り巻く光


あの眩しい日差しが空高く上がった頃、八雲はようやく起き上がった。
なんだか部屋の外が賑わっている気がする。
ここは一体何処の部屋なのか、話はまずそこからだった。

「…あ、昨日のおねーちゃん!」

八雲が廊下へ出るとそこは2階ようで目の前の手摺の出っ張りにまだぼんやりする頭を乗せて声のする広間を上から眺める。
賑やかだった理由は昨日挨拶して回った住人が入れ替わり立ち代り訪れているようだった。

「倒れたって聞いたよ、大丈夫かい?」
「アンタ、信仰の目覚めの兆候だってな」
「目が覚めたなら一安心だぜ」

回らない頭に投げかけられた言葉は殆ど入ってこないのだがとりあえず和やかな空気感に任せて笑ってみる。
見ているとどうやら八雲へのお見舞いの品と称して広間に多くの食料が持ち込まれているようで、次々とやってくる住人に知佳や近藤らが代わりにお礼を告げていた。

「すみません、ご心配をおかけしました」

八雲も手すり越しに精一杯元気な声を出してみたつもりだが思っていた以上に情けない声量で己の事ながら驚く、何故こんなに疲れているのだろうか。
その場で困惑していると隣の角部屋の扉が開かれ、たった今起床したのか大欠伸をかます銀時が現れた。
様子を伺っていると視線に気がつき銀時もこちらを見る。

「おう。体ヘーキなのかよ」
「おはよ。うん、ちょっと怠いけど平気。」

頭をボリボリ掻きむしりながら心配してくる銀時の不器用さに少し頬が綻ぶ。
心配かけてゴメン、笑ってみせた。

(…コイツ、こんな顔で笑いやがるのか)

昨日とは違い穏やかな笑顔とのギャップに銀時の身体の奥がドクリと脈打つ。
顔がジワジワと熱くなる感覚に口元を手で覆い誤魔化した瞬間、今度は八雲を挟んで向かい側の扉が開け放たれた。

「…何やってんだこんなところで」

八雲が振り向くと目の下に疲れを見せながら土方が姿を現した。
キッチリした彼には珍しい、寝坊だろうか。
また手摺の出っ張りに軽く頭を預けると言いにくそうに笑いかける。

「朝寝坊しちゃった、トシはちゃんと眠れた?」

昨晩収めた筈の胸の高鳴りが土方の中でぶり返す。
一目惚れを自覚してから恥ずかしくて眠れなかったなんて絶対に言えない。

「…俺は仮眠しただけだからな。」

そう言いながら照れ隠しにソッポを向きつつ話題を変えてみる。

「調子はどうだ。」
「ボヤッとするけど平気。心配かけてホントごめんなさい。」

八雲は申し訳ないなと思う傍らこの仲の悪い2人は揃って同じ質問をするのだなと心の中でニヤけるが、そんな空気をぶち壊す空気が彼女の頭上で渦巻いている事に気がついた。

「オマエ、何親しげに呼ばれちゃってんの?」
「あ?テメェに報告する義務でもあんのかコラ。」

漫画じゃ笑って読んでいたが目の前で繰り広げられると完全にヤンキーのソレだ。
バチバチとガンを飛ばし合う不機嫌な表情、怖い。

「か、顔を洗いに行きまーす…」
「俺も行く。コイツと違って綺麗好きだからな。」
「俺だって顔も洗うし歯も磨くわボケェ!」

八雲は逃げ出そうと図るも失敗に終わってしまう。
諦めて広間へ続く階段を揃って降りていくと知佳がオハヨウの意味を込めて手を振りつつ絶妙な助け舟を寄越す。

「八雲ー!昨日の手が光るやつ教えてくれるって、教会へ来いってさ!」
「教会?はーい、分かっ…うわっ!」

八雲は知佳の伝言に歩きながら振り向き了解するが、前方を歩いていたはずの土方がいつのまにか立ち止まっており彼の胸板に思い切り衝突した。

「イッタ…ちょっと急停車禁止ぃ」
「お前こそ余所見運転禁止ぃ。すぐ行くのか?」

一瞬何のことか分からなかったがすぐに教会の事だと理解して頷く。

「俺も行く、そのボサボサ頭整えて待ってろ。」
「大丈夫1人で行けるよ。すぐ隣の島じゃん。」

指摘されたボサボサ頭を手櫛でなんとか整えられないかと試みながら返事をする。

「1人で行ってまた倒れたら誰が連れて帰ってくんだよ。」

いいから言うこと聞け、と土方から一喝くらい不服そうに八雲は黙ると背後からそんな顔するなと言わんばかりに銀時が頬を引っ張ってくる。
そんな3人のやり取りを見ながら朱里が言い放つ。

「あの。全員で来いって事なんで、早く準備してください。」

「「「…はーい。」」」





教会まで移動した一行は神父からこの世界の宗教的な歴史に触れた。
驚くべき事に何も無いところからエネルギーを生み出す“魔法”が存在すること。
しかし今回八雲の手から放たれた淡い光は魔法とは少し違い“信仰の光”という自然の神秘の力だそうだ。

「治癒で例えるならば、自己修復力をアテにした薬物使用が物理。
術者の精神エネルギーを使い即座に傷を癒すのが魔法。
術者と自然のエネルギーを混ぜ魔法効果と自己修復力を飛躍的に高めるのが信仰。
ただこの信仰は使い方が複雑であり、絶大な効果を発揮する代わりに術者の体力と精神エネルギーをどちらも継続的に消費していく。」

“信仰の目覚め”を起こさせるためにこの世界の人々は宗教に入信するらしい。
ただそれに目覚める者は一握りしかおらず、大半は修行だけで生涯を終えてしまうそうだ。

「貴女は信仰の光を既に保持している。使い方が分からないだけです。
もし、今後この里の外へ出る気があるのならその力の使い方には十分に注意しなさい。
磨けば世界も揺るがす絶大な力、狙う者もいるでしょう。」

そんなこと言われてもなぁと八雲の口は半開きだ。
神父は困ったように笑い言葉を続ける。

「今まで学んだもの、これから学ぶものに自らの形式は左右される。色々と試しては如何か。」

そう言うと教会の地下部分を解放しに歩みを進め、後をついていくと暫く締め切られていたせいか埃臭い訓練場が姿を現す。
そこは刀も振れるであろう十分な広さがあった。

「この教会には昔、同じ様にやってきた異界人が置いて行った物も多い。今回のヒントになるかは分かりませんが調べる価値は有るはずですよ。」

解明までの第一歩として糸口になりそうな教会の情報を得た一行は一度帰路に着く。
そんな道すがら突然ポカンとした顔で八雲は呟く。

「私、この世界を知る。」
「え?」

キョトンとする連れ達に構わず続ける。

「世界を揺るがしかねないこの力なら次元だって網羅できるかもしれない!帰る方法が見つかるかもしれない」


『こ の 世 界 を 読 み 解 い て や る』


誰に語りかけるでもなくつらつらと空に向かって放たれた八雲の言葉に空気が揺れた気がした。
相変わらずこの世界の太陽は眩しい。
その光を反射して輝く彼女の眼は真っ直ぐと明るい未来を見据えていたが、その瞳の瞳孔は開いている。
侍である彼等は見た事のある瞳だ。

「…と、とりあえず皆さん帰りましょう!」

只ならぬ空気感に皆止まっていた足を動かせるよう、新八が声を張るとまるで拘束が解けたかのように皆にまた歩き出す。

「…万事屋。」
「奇遇だな、言いたい事は大体分かるが俺には見当もつかねー。」
「信仰ねぇ…」

土方の深く吐き出した煙草の煙は青い空へと消えて行く。



全員揃っての用事が終わればそれぞれ思い思いの行動に移る。
八雲達は町へ買い物へ出かけ、ダイニングでは真選組が集まって難しい話を、残された銀時達は広間のソファでダラダラとしながらその会話に耳を傾けた。

「さて、どうする。アイツらに剣術でも教えるか?」

当面はこの地を離れなくても情報収集は出来そうだが、世界を知るという事はこの里の外に出なければならないという事。
この世界の人々の話を聞いている限り場所によってはかぶき町なんか比でないくらい治安の悪い場所もありそうだ。

「自己防衛くらいは覚えてもらわないと話になりやせんぜ」

自分達真選組には刀がある、それは万事屋も同じ。
問題は平和な世の中から来たという彼女達だ。
予測できる敵から殿様を護衛するのだって相応の人数が必要なのだ、想像も出来ない敵から守る姫が3人も居たのでは絶対に手が足りない。

「女に刀を持たせるのは余り乗り気しないが、致し方なし…か」
「俺はそういった術を教えるのは反対だな。」

土方は真っ向から反対の意を示す。

「知佳と朱里はまだいい、八雲は下手に教えれば行き過ぎるぜ。」
「行き過ぎるって何がだ、ストイックな修行でもするのか?」
「平和過ぎるってのは加減が分からなくなんだよ。あの目は平気で人間を殺すようになるかも知れねぇ。」

近藤の眉間には深い皺が寄る。
喧嘩も滅多に見たことないくらい平和な世界、そりゃ知らない物を最初から加減しろなんてハードな要求だろう。
しかし土方だって今の状況は分かっているはず、それを差し置いてこの議題に対する露骨な態度に近藤は違和感を感じていた。

「トシお前、あの子を染めさせたくねェんだろ。」
「……。」

平和な世界に戻って生活するのに血生臭い情報は必要だろうか。
答えは決まっている、要らない。

「アイツは自分で出来る事を片っ端から全力でこなそうとする筈だ。自滅する。それは共倒れするのと同じだ。遅かれ早かれどう転んでも負のループに陥るだろうよ。」

その考えだってきっと間違っちゃいない、と近藤は思う。
しかし八雲が鍵だと分かった今彼女を動かさない事には最終的に手詰まりを起こすことだって容易に想像できる。

「なら全員で付きっ切りの護衛でもするんですかィ?あの姐さんの様子じゃアンタが張ったバリケードなんざ自分で飛び越えて行くと思いやすがね。」

昨日里に降りた時の八雲の好奇心の強さと根性を見たら想像はつく。

「だからこそ…八雲はコッチに来させちゃならねぇんだ。」

土方には意思が強すぎる部分がある。
その頑なさを間近で見る機会の多い沖田はつい煽り文句を言い放った。

「そうやってまた自分から突き放すのか、姉上の時のように。」
「なんだと?」

その瞬間土方の視線も一段と鋭くなり双方が睨み合うとピリピリと空気が部屋に張り詰めて行く。
まぁまぁと近藤は宥めながら話を続けようとするが一触触発のこの空気は実に耐え難い。

「ただいまー!」

そうこうする内に買い物隊の帰還である。
広間がワイワイと騒がしくなってきたので会議は強制的に終わりを迎えた。
食事の支度でも手伝おう、と3人が広間に向かうと頭数が足りない。

「あれぇ、八雲ちゃんは?」
「教会の本借りてくるってー」

知佳の言葉に土方の眉がピクリと動く。

「他に何か言ってたか?」
「何も。すぐ戻るって言ってたし大丈夫でしょ。さぁ、ご飯作るよー!」
「手伝いまーす!」
「あ、僕も!」
「味見係は私に任せるネー!」

知佳の掛け声に朱里、新八、神楽とキッチンへ順に駆け込む。
そんな彼等を視線で見送り銀時は気難しい顔をした土方をチラリと横目で見る。

「…俺ェ、散歩行くわー」
「……。」

無反応を貫く土方だが眉間にはギュッと深い皺が寄っているのを近藤は見ていた。

「トシ、お前も行ってきたらどうだ。」
「誰が行くか」

即答で意地を張る土方の姿に近藤はダメだなこりゃ、と肩で沖田と密かに会話をするのだった。






「全ッッ然帰ってこねーじゃねーか!」

買い物に出かけてから既に5時間は経過している。
とっぷりと夜も更けてきた頃、土方のコメカミには血管がバキバキと浮き上がっている。
散歩にでかけた天パなんてのはどうでもいいが、何故すぐ戻ると自分で宣言しておいて八雲は帰ってこないのか。

「オイ、マヨラー。イライラしてんじゃねーヨ!」
「ニコチン切れてイライラしてんだよ!」

タバコ吸ってくる、と玄関の扉を開けて驚いた。
家の目の前に広がる広場のベンチに八雲は座って黙々とぶ厚い本を読んでいた。
読み終えた本だろうか隣には2冊ほど積んである。
見つかってホッとする反面、彼女の膝の上に乗る白いモジャモジャが乗っかっているのを見て土方の胸の中で殺意が湧き上がる。



───数時間前

銀時が散歩に出ると目の前の広場のベンチに八雲が座っていた。
真剣に本を読んでいたので無言で近寄り、そっと隣へ腰を下ろした。

「あれ、銀ちゃん。」
「戻らねーの?」
「うん、借りた本のキリが悪い。」
「そうかい。」

夕焼けの奥から迫る闇夜を眺めながら銀時は八雲の読んでいる本の中身を横目で見る。

「その文字読めるのか。」

銀時にはなんだかニョロニョロとした模様がズラリと書かれているようにしか見えない。

「所々ね。でも私あんまり語学得意じゃないから1ページ読むのに凄く時間がかかるの」

本から顔を上げるとぐっと背骨を伸ばし、こちらを見て八雲は困ったように笑っていた。

「この本ね、私達と同じ異界人がこの世界のエネルギーについて書き置いていった研究書をそのまま本にしたんだって。」

そう言いながら彼女はまた視線を本に落とした。
暗くなってくる空に気を取られる素振りも見せず黙々と読み進めている。
真剣な眼差しを眺めていると意外と長い睫毛に気がつく。
朝感じたような心臓の揺らめきに銀時自身戸惑いながらもまた空を眺め、左手を伸ばすと八雲の頭にポンと乗せた。

「オメーよ…あんまり抱え込み過ぎんな。」
「んー?」
「まだ自分のせいだと焦ってんだろ?」
「……。」

頭に置いた手に少し力を入れてワシャワシャと撫でる。

「そんな風に考えてるのはオメーだけだぜ。」

八雲はグッと下唇を噛み、本を持つ手が微かに震えたように見えた。

「何の因果なんだかも分からない。でも私がキッカケで変な力の循環を持っているなら私以外誰がやるの。」
「随分と達者そうな口だな。心からそう思ってる奴はそんな顔しやがらねーよ。」

次の瞬間八雲の見せた表情は無だった。
彼は肩をすくめて見せる。

「やりたい事とやるべき事は別物でしょ。」
「自分をそんな風に縛って楽しいのかい?」
「楽しくなるかどうかは自分の心がけ次第。」

本を読みながら淡々と答える八雲は少しだけ笑って見せるが、それは拒絶を含んだ空っぽの笑顔のように銀時の目には写っていた。
銀時はもう一度彼女の頭に手を伸ばし、今度は掌で優しく撫でるとまた視線を空に戻す。

「因果だかなんか知らねーけどそれもまた縁だろ?周りを頼れよ、人は群れて生きる生き物だ。」

頭を撫でていた手が頬を伝ったかと思うと不意に顎を引っ掛け此方を向かせる。

「その真っ直ぐな目は綺麗だぜ。笑っていれば自然と人も動くもんだ。」

銀時は言い終わると同時に頭の後ろで手を組みベンチに体を横たえた。
突然の言葉に八雲は驚き頬を赤らめながら銀時を見る。

「戻らないの?」
「群から外れてる子が気になるからこっちで群れてんの。さっさとソレ読んじまいな。」
「…うん。」

八雲の穏やかな笑みを横目で見ると、銀時は少しだけ満足そうに笑って目を瞑った。


───。



土方は頬をヒクつかせながら八雲の目の前にやって来ると、彼女の腿に寝転ぶ白い毛玉に憎悪を向けて仁王立ちをする。

「オイ、その白髪頭はいつからお前の腿を枕にしてんだ?」

土方の問いかけにようやく彼が立っている事に気がついた八雲は質問に質問を返す。

「あれ、タバコ?」
「そう、タバコ。」

呑気にヒラヒラと手を振る八雲に対し手を上げ軽く挨拶を交わし、早速彼女の腿で寝ている銀時の頭を刀の柄でつつく。
頭の違和感にすぐに目を開けた銀時だったが、真上には八雲の笑顔。
状況が分からずとりあえず寝返りをうってみる。
ふっくらとした感触が銀時の頬に押し付けられた。
しかし目の前には刀を鞘から抜く土方の姿、あまりにふっくらとは無縁だ。

「おはよ銀ちゃん。」
「あの…この状況は予想外……」
「俺は今ニコチン切れてイライラしてんだ」

銀時の胴を真っ二つにする勢いで振り下ろされた土方の刃は空振りベンチにめり込む。

「危ねーな!本気で抜くヤツがあるか!!」
「テメェに相応しい代償だコノヤロー!」

広場でチャンバラゴッコが始まるが八雲は気にせず残りの本を読み進める。
読みながら自分の立場を説明し始めた。

「銀ちゃんガチ寝してて寝返りでベンチから頭落ちそうだったからさぁ、膝に頭乗せといた。」
「そりゃありがとオォォォ!!」
「上ォ等ォだコラァ!!」

ギャアギャアと騒がしい屋外広場に何事かと家から新八達が出てくるも止まらない2人。
しばらく追いかけっこを続けていたが読み終えた本をパタンと閉じ八雲が声をかけるとピタリと止まる。

「ねぇ!見てて!」

立ち上がり右の掌を広げ緩く握った左手の拳にフッと短く息を吹き込んだ。
その拳を右手に乗せ目を閉じて何か呟いている。

「“ 信 仰 の 光 を 我 に ”」

八雲は掌の物を高く撒く様に掲げた。
まるでスローモーションのように広がるキラキラと輝く粒。
よく見ると小さな水滴のようだった。

「私の属性は水かぁ…隊の一本槍にはなれなさそうだぁ」
「おい!」

少し残念そうに笑うとフラリと後ろのベンチにへたり込んだ。
土方と銀時は八雲の元へ駆け寄ると同時に空中に停滞していた水滴達が地面に叩きつけられ、シャラシャラと鈴の様な音を立てて落ちてゆく。

「なんだこの音…」
「私今ワクワクしてるからかな?」

力を使い果たしたかのようにぐったりとしながらも八雲は嬉しそうだった。

「信仰の光で私の属性と念を可視化したの。でも力み過ぎたみたい…」

ゴメン、と笑いながら2人に体を助け起こされると八雲は体を預けながら小さな声で呟く。

「遅くなってごめんなさい、ただいま。」
「「おかえり」」

左右のオデコを軽くデコピンされた。



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