背後の正面だぁれ
ヒンヤリとした空気の漂う早朝、真選組の3人はいつもの様に訓練場まで朝練に繰り出そうと玄関の扉を開けると外で柔軟している八雲の姿が目に飛び込んできた。
「おはよ!」
「テメ…何してやがる!傷開いたらどうすんだ、寝てろ。」
「朝練について行きたいです!」
はぁ?と3人は驚いた顔で八雲を見つめるが、頑とした意思を伝える為彼らを通せんぼするかの如く向かい合って立つ。
「避けるってどうやるのか見たいので、朝練見学したいです!」
「避けるぅ?ンなもん見て覚えんじゃなくて勘で避けろ。」
そんな事が上手く出来るのはきっと土方だけだと八雲の口がへの字に曲がる。
「柔軟しました!」
「土方さん、このアマあわよくば動き回る気満々でさァ。」
「…柔軟に見学します!」
「屁理屈言ってんじゃねぇよ!」
朝っぱらからギャアギャアと言い合いをしだす土方と八雲を近藤がなだめに掛かった。
「まぁー…見学なら問題ないだろ。
八雲ちゃん、俺達の朝練に参加するには守らないといけない約束がある。隊士の気を散らす行動はご法度だ、守れるなら見学を許可しよう。」
「はい、静かにしてます!」
「ホントにできんのかぁ?」
真面目な視線で八雲は近藤と約束を交わしたところに土方から横槍が入りまたギャアギャアしだす2人を見て近藤は苦笑いを浮かべた。
訓練場に到着すると八雲は邪魔にならないよう階段に小さくなって座り3人の姿を眺めている。
最初の素振り中は体の使い方をよく観察し仕組みを知る。
人体の仕組みが分からなければ直接的な強化など出来る訳無いのだから。
やがて手合わせが始まると熟練した者同士の動きは想像を遥かに超えていて全く訳が分からない。
(そっか…目に頼ってはダメなんだ…)
土方の言う勘≠ェ少し分かった気がした。
3人とも自分に向かってくる相手の切っ尖なんて見ていない。
迫る空気感と自分の研ぎ澄まされた神経で避けているように八雲には見えた。
『ありがとうございました』
礼とともに訓練が一通り終わると汗を拭いながら近藤が八雲の方を向き声をかける。
「何か参考になったかな?」
「うん。私には到底真似出来ない領域なのが、よーく分かりました。」
八雲はそう言うと立ち上がって深々と礼をした。
3人もその姿に少し面食らう。
彼女の事だ、自分もやってみたいと騒ぎ出すのではと予想していたが思いの外大人しい。
「随分物分かりが良いじゃねぇですかィ、何企んでやがる。」
「私を何だと思っているんだい。」
沖田の挑発に不服そうな顔をしながらも八雲は続けた。
「怪我治るまではちゃんと静かにしてるっていう約束は守るから、その間私と忍者ゴッコしてくれない?」
3人の目は関心した物からみるみるうちに奇妙な物を見る視線に変わっていく。
説明を求めると八雲なりに思う平和呆けた己の鈍感さについて辿々しく説明し始める。
重ねて言い辛そうに自分はその中でも気配を察するには鈍いと自己分析も伝えていった。
「よく棚の出っ張りにぶつかるし、背後の人とか全然分からないし…」
「まぁ…見るからに…うん。」
近藤の露骨な濁し方に優しさは感じるが恥ずかしくて顔が赤くなる。
しかし本当の事なので言い返せない。
そんな中、沖田の姿が忽然と消えた事に八雲は気がついた。
「あれ、総悟は?先に帰っ…ウワァ!」
「背中がガラ空きですぜ」
いつの間にか背後に回り込んでいた沖田は手刀で八雲の肩から背を斬り込むようなポーズをとると、彼女も素直に斬られて苦しむ仕草でその場に斬り伏せられる。
「こうなるので…まずは日常生活で私が人の気配を感じとる練習に付き合って欲しい訳です。」
素人なりではあるが考えたもんだな、とばかりに3人は顔を見合わせた。
その折角芽生えた向上心を無駄にはさせたくない。
「5回斬られたら罰ゲームですぜ、姐さん。」
「あぁ、そりゃ楽しくなりそうだな」
口の端だけで笑う土方と沖田の目は笑っていない。
八雲は嫌な汗を背中にかきつつではあるが、訓練の第一歩を踏み出せることとなった。
何時もの様に朝の訓練帰り、八雲は資料室で文献を読みながら土方に先日の刀の帯電について解いてゆく。
「属性ってのは4種類、ありゃ風だったんだな。」
「うん、文献にある様に火は水が大嫌いだから…多分元が水属性の私には火は容易に扱えない。風は火の次に攻撃向きで水とも友好属性だし、単発付与なら言霊乗せれば出来るかなと思って試してみたの。」
魔術には普通詠唱が付き物だが“信仰の光”に関しては全く不要との解釈だったが、それは今の八雲の使い方では自己属性にしか当てはまらないようだ。
土方が紙に属性の図を描いてみると、その図に八雲が矢印を書き加えながら更に詳しく説明をしていく。
一瞬彼の視線が他所を向いたような気がした。
「…ん?」
「んぁ、いや…こう見ていくとホント陰陽道みてぇだなと思ってよ。」
「やっぱりそう思う?だから言霊白虎≠ノし「隙ありィィ!」
背後から大きな声と共に八雲の脳天に優しいチョップが振り落とされた。
しまったと顔をしかめたまま彼女が後ろをむけば意地悪く笑う銀時の姿がそこにあった。
流石に勘付きもう一度前に向き直ると正面では土方が口元を拳で押さえながら肩で笑っている。
「沖田クンから忍者ゴッコと聞いて参上ー」
「…いや、わりぃ、俺の視線で気がついたかと思ったんだが……ククク」
侍の国では考えられないくらいの鈍臭さを目の当たりにして土方と銀時の笑いが止まらない。
「嵌めたなーーー!」
「5回目斬った奴の“言う事何でも聞く”んだってな?」
「総悟め…好き勝手にルールを…!」
伝言ゲームの中でいつの間にか“罰ゲーム”が“何でもいう事を聞く”に変わっていることに八雲は悔しげな表情を浮かべる。
しかも家で全員に通達でもしたのだろう、鬼の人数が増えては難易度爆上げだ。
もう一日一罰では済まない気がする。
「八雲ちゃん今ので何死目?」
「3死目…」
「ふーん」
実は本を読んでる間にも土方に首をスッパリ斬られやられた。
明らかになんか狙ってる“ふーん”だろうと八雲は心の中で悪態をつきながら机に頬杖をつく。
「結託すんのマジでナシだからね」
「は?何だその武士道に反する行為は。」
「そんな汚ねぇ手使う訳ないだろう」
「今!!やったじゃん!!!」
キーッと怒る八雲の姿に2人はゲラゲラまた笑い出すのだった。
夕食時、八雲の正面に座った沖田は半笑いで彼女に問う。
「姐さん、今日は何回死にやしたか?」
「…ここでは言いたくない。」
「言えよ、5回目の権限使うぜ。」
5回目を取った銀時の命令に八雲は悔しそうに口を尖らせながら答えた。
「………24回。」
心底言いたくなかったという顔のまま嫌そうな声を絞り出す。
次に斬るヤツがまた権限を得るのだ、面白がってイタズラに狙ってくるに決まっている。
因みに5回目が銀時、10回目が沖田、15回目が土方、20回目はまさかの知佳という気の抜けないバトルロワイヤル状態だ。
「今日誰の不意打ちにも気がつかなかったの?」
近藤も心配そうに聞いてくる割に罰ゲームまでの4カウント目を確実に取りに来るのは大体彼だ、本当に油断ならない。
「みんな気配消すの上手いんだもん…」
「お前が極端に察するのが下手なんだよ…」
よくその歳まで通り魔なんかに刺されずに生きてこれたなと土方も呆れ顔を見せた。
「因みに言っとくが俺達誰も本気で気配消してるわけじゃねぇからな」
「えっ」
不意に放たれた土方の言葉に八雲は思わず箸を落とした。
「気配を消すってのはこういう事だ」
突然後ろから喉元に突きつけられた木刀、ギョッとして後ろを振り返れば銀時が薄ら笑いを浮かべながら僅か数センチのところに立っている。
「サムライ舐めちゃいけねーよ。」
「恐れ入りました。」
「25回目取ったり。」
完敗だとばかりに八雲は切腹のジェスチャーをすると目の前の机に突っ伏す。
満足に回避が出来るようになるのはいつになるか、気が遠くなりそうな気がして八雲は深い溜息をついた。
───。
忍者ゴッコを始めて幾日かだった頃、八雲早朝の静かな森の中で自分の力を高める為に瞑想をしつつ、神経を研ぎ澄ますという行為に慣れる練習を取り入れ始めた。
相変わらず気配を本気で消されると読めないが、通常時くらいは背後に誰が近付いてきたか判別出来るくらいには成長し、同時に頭の傷も癒え忍者ゴッコにも終焉の気配だ。
「…銀ちゃん?あ、トシだ。」
「正解、万事屋が良かったか?」
八雲のいつもの場所に土方がやってくると彼女の隣の地面に腰を下ろす。
少し不服そうに肩を竦ませてみせる彼に八雲は首を横に振って否定する。
「2人は足音が似てるんだよね。背格好が似てるからかな?」
「全く嬉しくねーな」
ベスト姿のラフな着こなしの土方は朝の一服がてら様子を見に来たようで、手持ちの煙草に火をつけるとプカプカと空に向かって煙を吐く。
そんな彼の横顔は手の仕草も相まってとても綺麗で、しかしどこか憂いを帯びているようでもあり切ない気持ちが八雲の胸の中に芽生えてくる。
そんな土方をボーッと眺めていると視線に気がつき彼もこちらを向いた。
「なんだ?女は煙草やらねー方がいいぞ。」
「吸わない吸わない。でもトシの煙草吸う仕草がいいなって」
「なんも面白くねーだろ。」
自傷するように小さく笑い横目で見やると、体操座りをした膝に頭を乗せ此方を見る八雲の仕草に土方の心臓がドキリと跳ねる。
「…少し痩せたか?」
「あー、新八君と神楽ちゃんに稽古つけてもらい始めたから少し引き締まってきた?」
メンバーの中でも多少気配の感じ取りやすい2人に頼み、自分に向かってくる物を避ける練習も最近新たに始めた。
痩せた≠ニいう単語に少し嬉しそうに八雲は自分の体を観察しているが土方は少し心配だ。
女らしくふっくらしていた彼女の肩周りはより華奢になり、避けきれない一撃は腕で受け流している様で彼女の腕には痣がいくつか出来ているのが伺える。
土方が痣に目を向けると八雲は咄嗟に手で隠すが、気がつけば彼はその手首を捕まえていた。
そのまま捕まえた腕を自分の胸元へ引き寄せ、バランスを崩した八雲は反射的に土方の胸に手をつき顔を上げた。
「…ト、シ?」
「傷痕」
袖を捲り上げ痣を確認しつつ到達した頬に彼の指が触れると、耳の横を這って上がって前髪にあたる部分を少しだけ掻き分ける。
包帯の取れたそこは女の顔に相応しくないようなケロイド状になった傷痕が現れ、土方はそこを労わるように優しく触れた。
擽ったさと照れくささに頬に熱が集まるのが八雲にも分かる、きっと今顔が赤い。
「消えねぇな…」
余りに辛そうな顔で言葉を繋いだ土方の姿に八雲の心の奥が痛んだ、自分の怪我が原因で彼をそうさせているのだから。
「すぐ治るよ」
八雲の言葉に土方は煙草のフィルターを噛み潰す。
傷痕に触れていた手で八雲の頬をなぞり小さな顎を捕まえると、咥えていた煙草を逆の手で摘み遠ざけ彼の唇で不意に塞がれた。
「…っ……」
「八雲…」
少し開き気味だった八雲の唇に土方は本能的に舌を差し込むと彼女の舌を絡め取る。
半ば強制的にすくい取られた八雲の舌だったが不思議と彼の動きに合わせて交わりを受け入れるように舌を動かしていた。
互いの唇を軽く吸い合い、チュッと軽く音を立てながら離れていく彼の唇が名残惜しい。
「そんな顔、男の前でするもんじゃねーぞ」
「……」
何事も無かったように煙草をふかしはじめる土方の横顔から八雲は目をそらしながら口元を手で隠す。
唇に残る彼の温もりに舌で触れると少しだけ香る煙草の苦味を感じ耳まで赤くなった。
「…稽古付き合ってやろうか。」
突然の彼の申し出に驚き再度振り向くと、熱い自分の頬をピシャンと両手で叩いた。
「ホントに?」
「嘘ついてどーすんだよ」
八雲は少し赤ら顔のまま嬉しそうに彼を見つめる。
自ら頼んだ時は問答無用に拒まれたが、念願叶ってまさか本人から指導の申し出が受けられるなんて思ってもみなかったのだから。
「付き合ってほしい、自信はあまりないけど…」
「勿論、手加減はするぜ。」
土方は近くに落ちている長めの木の枝を選別し拾い上げ、枝先を整えると八雲に向けた。
キリッとした視線で彼女を見据える。
「受け流しは禁止、枝に触れねーように避けな。」
「がんばる!!」
八雲負けじと真剣な眼差しを土方に向けると互いに笑みをこぼした。
「余裕があれば反撃して俺から枝を奪ってみろ。」
「奪う…折るって事?」
「ちげーよ、奪取するか叩き落とせ。枝は刀だと思って本気で来い。」
障害物の多い森を出て広場へやってきた2人は対峙しながら始める前の確認をする。
お前の力くらいじゃ俺は怪我しねーから、と付け加えると彼は優しく笑った。
土方は最初の喧嘩以来八雲の事をよく理解したようで、最初にフォローしておかないと手を出すのはきっと躊躇うであろうと考えた彼の配慮だった。
「分かった!お願いします。」
じり…と構える八雲、まだまだ腰は引けているが最初を思うと武術をかじる者の構えになっている。
「…いくぜ」
地面を軽く弾くようにして動き出す土方は真っ直ぐ正面から切り込む。
その枝の先を左に避けながら八雲は彼の背後回り込もうと腕の外側を駆け抜け、すれ違いざまに枝を握る右手を平手で叩くがビクともしなかった。
「俺の刀の範囲外に避ける…初歩的だが最初にしちゃいい判断だ」
「ありがと」
「だが反撃はグーにしときな」
土方は枝の握りを即座に逆手に持ち替えると左手を柄頭に当たる部分に添え後ろ手に薙ぎ払い、彼が振り向く為の僅かな間合いを生んだ。
あっという間に対面してしまえば下から斜め上へと枝を振り抜かれる。
新八と違って全く予測のつかない動きで圧倒され間一髪避けるも八雲の前髪を枝が掠った。
「…ヤバイ知恵熱出るかも」
「このくらいで熱出るなら終わる頃にゃ脳溶けてるぜ」
───。
良し・悪し、と八雲の動きをその場で評価をしながら土方は次々と枝を振る。
そんな様子を家のバルコニーから眺める面々。
「鬼の副長絶好調だな。」
「土方さんが手加減してるとはいえ、姐さんもよくついていってるじゃねーですかィ。」
近藤と沖田は柵にもたれながら2人の手合いを見ている。
出会った最初の頃のボンヤリ何を考えてるか正直掴み所のない八雲の姿を思うと今は本当に変わった。
まだ振りが大きく遠目で見ているとぴょんぴょんと跳ね回っているかのように見え隙だらけだが、着々と力をつけているのは見て取れる。
「動きを隠せ!先読みされるぞ!」
「っ…はいっ」
律儀に返事をしながら集中力は切らさないように枝をギリギリの所で避ける、が疲れてくると気をつけていても元より余計に振りが大きくなってしまう。
(そろそろ休憩入れてやるか…)
八雲のスタミナ切れが顕著になってきた為土方は一旦仕切り直してやろうと枝を本気で彼女の脇腹に当てに行く。
振り抜こうとした瞬間土方は思わず目を見開いた。
「っ!?」
自分の右手を起点に八雲が宙を返り舞う。
「アレ昨日私が八雲に見せた技ヨ!」
近藤らの後ろで酢昆布を食んでいた神楽も思わず柵から身を乗り出し声を上げた。
足が真上を向く前に土方の右手から八雲の手が離れると両手の平を強固に組み、回転の力を利用してその両手の拳を彼の右手首に力一杯ぶつける。
「ヤァ!!」
関節を狙った一撃に痺れが回り握力が弱まると、振り抜こうと勢い良く動いた枝が土方の手からすり抜け飛んで行った。
──ドシャアッ!
枝が転がると同時に着地するが上手くいかず八雲ははしたないポーズのまま背中から落ちた。
しばらく悶えた後ユックリと起き上がる。
「……お前…」
「イタタ…着地に失敗しちゃった」
エヘヘと照れ臭そうに笑う彼女の姿を見て土方は指をさす。
「パンモロしてるぞ。」
「………」
無様な着地の拍子に少しタイトめな制服のスカートがめくれ上がったまま布が戻らず尻が丸見えだ。
加えて激しい動きの後で下着も食い込み半ケツになっている。
「…………」
無言のままズリズリと着衣を直してその場で体操座りになると膝に顔を伏せて耳まで赤くしている。
「…昨日ね、神楽ちゃんがやってて…カッコよかったから真似してみたの」
「おう…」
「………」
「スゲーと思うわ。俺もビックリして枝放っぽっちまったぜ、パンモロ。」
「やっぱビックリするのそっちだよね…」
風に乗って家の方向から笑い声が聞こえてくる。
土方は自分の右手と放り出された枝を交互に見て宙返りを思い出す。
とても見様見真似で出来るような動きには思えなかった。
そしてパンモロの所為で有耶無耶になってしまったが、この手合いの流れを切ろうと立ち回った筈が逆に切られてしまった事実。
(コイツ目がいいのか筋がいいのか…)
そんな事を考えながら戻ろうと八雲に声をかけるも、激しく落ち込んだまま日が暮れるまで漬物石にでもなったかの如くそこから動くことはなかった。
「よう、半ケツの姐さん。」
翌朝、日課の朝練から戻った沖田に不意にそう呼ばれ、八雲はブーッと口に含んだ味噌汁を吹き出してしまう。
本当にその不名誉な呼び方はやめて欲しい。
「総悟、そういう事女性に言うもんじゃない!男なら心に留めておいて有難く…ウゴッ」
机に両手をバンと叩きつけると勢い良く立ち上がった。
「私この制服を脱ぐ事に決めました!」
同時に拳を上向きに振り上げとんでもない一言を放とうとする近藤にアッパーを食らわすと大声で宣言をした八雲。
同じ制服を着る知佳も朱里も面食らっている。
「装いを半ズボンにします!」
「買いに行くって事?」
「うん、無ければ作る!」
「パンモロ事件が先輩を意固地にさせている」
「…やっぱ全員に見られてるよね。」
朱里の言葉にがくりと項垂れ悲しそうに朝食を片付け、いつものように髪の毛を1つに束ね意気揚々と買い物に出ようとすると、知佳と朱里も行きたいと支度を始める。
この3人で買い物に行くのはいつ以来か、賑やかに玄関を出ると一気に室内が静かになる。
「おい、チャイナ娘。」
「なにヨ」
「八雲に宙返り教えたのお前だって?」
酢昆布を齧りながら振り返った神楽は首を横に振る。
「教えたつもりはないネ。1回だけ目の前でやって見せただけ。」
「そうか…」
土方はその場で考え込むように腕を組んだ。
「八雲は集中力が凄いヨ。ヘタな武器よりも手技の方が向いてる気がするネ。」
「…何か持たせてみたのか?」
「新八の竹刀持たせた時はダメダメだったアル。自分の足叩いたり、自分で持ってる竹刀に躓いて転んだり鈍臭すぎて見てらんなかったネ。」
新八と神楽はその姿を思い出したのか顔を見合わせて吹き出している。
物に振り回されるタイプなのだろうか。
それにしても竹刀に足を縺れさせて転ぶ姿が容易に想像できて思わず土方だけでなく話が聞こえてた全員が笑ってしまう。
「ま、色々やってみればいいんじゃねーの」
やる気無さそうに銀時が欠伸をしながら広間に現れた。
「銀ちゃん今日は早いネ」
「いや十分遅いよ、何時だと思ってんの!」
キレの良い新八のツッコミが炸裂する。
銀時と真選組の3人は少し遅めの朝食を取り始めるのだった。
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