「あ、HERO TVだ」

誰かの言葉にビルは思わず立ち止まる。

「ウィリアムお前、好きだよな、HERO。贔屓はスカイハイだっけ?らしくないよな」

呵々として同僚が笑う。ビル本人もらしくないことは承知の上だった。

「勝手だろう」

「そりゃそうだ」

画面の向こうでスカイハイが風を巻き上げて人を助ける。その風がとても優しいことをビルは知っていた。

画面が変わってほかのヒーローたちが映し出されていく。少しだけやきもきしながら、ビルはスカイハイ専用チャンネルがあれば今すぐ加入するのに、と思った。

「本当、らしくないよな。お前がそんなに一人のヒーローに固執するのって」

ちらりと横目にみた同僚の顔はわりと真剣で、ビルは別にいいだろう、と顔をしかめた。

「お前の彼女、ダイアナ?私よりスカイハイの方が好きなんじゃないかってこぼしてたぞ」

「……ダイアナとは別れた」

「え」

同僚の声を無視してビルは画面のスカイハイを目で追う。少しだけ様子がおかしい気がして、ビルは首を傾げた。

「ダイアナちゃんちょー美人じゃん!ナイスバディだし!どこに不満があったんだよ!?」

「振られたんだよ。愛が感じられないってな。なぁ、スカイハイなんかおかしくないか?」

ビルが指で画面を示すと、同僚はいらいらした様子でふつうだろう、と答える。
そうだろうか、とビルは首を傾げる。

「お前本当にスカイハイの方が好きなんじゃないのか?もったいねー」

「そっちとあっちは別だよ。一緒にするな」

HEROTVが終わる。なんだか落ち着かなくてそわそわする。
早く帰ろう、とビルは自分のデスクを目指した。

「ウィリアム、飲んでいかない?」

同僚の言葉にビルは振り返る。彼の言葉にビルは間髪入れずにパス、と答えた。



笑顔で迎えたキースに、ビルはただいまよりも先に服を脱がせた。

目を白黒させるキースは少しだけ抵抗したが、黙ってろ、とにらみを利かせると静かになる。

右肩の辺りに、しわくちゃになった湿布が貼られていた。

「……自分でやったろう」

「……うん。ちょっと負荷が大きかっただけだから」

そういう、キースの情けない顔にビルはデコピンを入れる。

「痛かったんだろ。病院くらい行け、バカ。君に何かあったらどうするんだ」

「ありがとう。そしてありがとう」

キースが情けない顔のままで笑う。なんだかその顔を見ていられなくて、ビルはキースの頭を力一杯かき混ぜた。

「今日は俺が湿布貼っといてやるから、明日必ず病院行けよ」

わかった、と二度繰り返したキースはもういつもの笑顔で、ビルは少しだけほっとする。


『スカイハイの方が好きなんじゃないのか?』

その言葉が不意によみがえって、ビルは少しだけどきりとした。

だとしたら?どうなんだ?

「どうかしたかい?」

停止したビルの顔を、キースがのぞき込む。スカイブルーの瞳が目の前にあって、ビルはぎょっとして、キースを脱がせるために自分が馬乗りになっていたことを思い出す。
慌ててキースから降りて、ビルは全力疾走する心臓をなんとか宥めた。

ーーその感情は別物だ

そう、自分に言い聞かせるのがビルにとって精一杯だった。

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