「そうだ、ルームシェアをしよう!そうしよう!」
名案だ!と言った男にビルは唖然とする。一体何事だ。
「ちょっと待て、」
「私はキース・グッドマン。君は?あ、ピン貸しなさい」
「ウィリアム・ギルバートって何戻してるんだ」
キースはビルからピンを受け取ると雨よけの下にぶら下がっているコルクボードにビルがはずした物件の紙を戻してしまう。
「私たちがこうやって出会ったのは運命だ!」
「いやいや、意味が分からない」
キースはビルの肩をとんとん、とたたいた。初対面にしてなれなれしすぎるそれは何故か嫌みがない。
さっとビルはキースの全身に目を通す。
着なれたジーンズに、ジャケット。その下はスポーツタイプのシンプルなTシャツ。白いスニーカー。ファッションにこだわっているように見えないそれはどこかの学生のような服装である。
しかし、きらきらとした顔がそれが一流ブランドか何かに見せる。なんともお得な顔だ、とビルは分析した。
「僕は君とは初対面なんだけど。見ず知らずの人間とルームシェアなんて……」
「じゃあ今から知り合おう!」
言い切ったその笑顔に悪意はない。清々しい笑顔にビルは思わず後ずさる。
どんなナンパ文句だ。いや待て、これはナンパなのか。
どちらかと言えば肌寒いはずなのに、ビルの背中を冷や汗が滑り落ちる。
「断る」
距離をとってビルは言い切る。意味が分からない。
そしてその瞬間ビルは唖然とした。
「そう……か……」
まるで日食のごとく精気を失った顔でキースがしょげる。心底残念というそれにビルはうろたえた。これではまるで自分が悪いかのようである。
「ほ、ほら、……は、話し合おう!その辺の喫茶でも入って……な?」
「……でも、」
「僕がおごるから、な?」
ぱっと輝いた顔に、ビルは犬だ、と思った。
そして、入った喫茶店でビルはキースに押し切られて、直後、出会った不動産屋で物件を契約する羽目になる。
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