雨が降っている。

石畳の歩道に、大きめの雨粒が跳ねる。


カラフルで小さな長靴が石畳の上を跳ねて、水たまりの水を跳ね上げる。

華奢な靴が雨をよけるように神経質に、転ばないように、足早に駆けていく。

黒い革靴が大股でグレーのズボンを濡らしながら雨粒をかき分けていく。

その上では灰色の空から落ちてくる大きめの水滴から、色とりどりの傘が持ち主をかばっていた。

シュテルンビルドは雨だ。
燦々と降り注ぐ太陽は見えない。


ガラスに反射して見える光景にビルはため息をつく。せっかくとれた休みに雨が降るなんて、ついてない。

ビルは目の前に貼られた賃貸の物件に視線を戻す。

物件を選ぶのが初めてのビルにはどれがいいかなんてさっぱりわからない。


入社してこっち、しばらくは実家から通っていたのだが、乗り継ぎ満員電車、スト、人身事故その他諸々に辟易としてここ最近は友人の家に家事をするという交換条件で泊まり込んでいる。
家事をするのは得意だから問題はないのだが、ずっとこのままという訳にはいかない。

やっとこさとれた休みを物件探しにあてたはいいが、ビルには善し悪しがさっぱりわからなかった。


いくつかピックアップしておいた不動産屋を巡ってなんとかこの不動産屋がいいだろう、と勘で絞り混んだはいいが、その決断さえ自信がもてなくなってくる。

実家から通っていて貯金があるといっても、新入社員の給料はさほど多くないし、失敗して引っ越す余裕は存在しない。
慎重に選ばなければならないが、また次の休みとなれば、ずっと先になってしまう。


やむ気配のない雨に、せめて風邪を引かないようにと肩を傘でかばう。足下はもうずぶぬれで、スニーカーの中まで水が入り込んでいる。足が凍り付くような季節でないのはせめてもの救いだろうか。

どうにも決断力にかける自分にため息をついて、ビルはさっきから候補にあがっていた物件をとりあえず見せてもらおう、とコルクボードに手を伸ばす。

雨粒で濡れたそれを破かないように慎重に取りはずそうとする。

そのとき、傘が肩から滑り落ちる。

「いて」

傘の骨が頭にささって、手にしていた紙が手からはなれた。

まずい、とのばした手は落ちてきた傘に阻まれる。

そのとき、ふわりと優しい風が吹いた。

しけった紙がまるで吸い込まれるように舞い上がっていつの間にか隣にいた男の手に収まる。
その光景に驚きながらビルは目の前まで覆い被さった傘を差しなおして、ビルの落とした紙をどう言うわけか拾い上げた男の顔を見た。

「君もこの辺りで一人暮らしの物件探してるのかい?私もなんだ」

きらきらと輝く金髪。白い歯をのぞかせる笑い方に嫌みはない。

雨のシュテルンビルドに太陽が差したみたいだ、とビルは思った。




それが、ビルのスカイハイというヒーローとの出会いだった。

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